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「っ、あ、まだ……」
相手の想像以上のイケメン具合に、思わず口ごもる。
白いコックコートが爽やかで、細い切れ長の目が印象的な男の人だ。
……あ、胸のところに銀色の名札がついている。
『URATA』というローマ字の下に、緑色のラインが入っていた。
「あ、全然急かしてるとかじゃないんで。ゆっくり見てください」
私が戸惑っているのに気付いてか、そのイケメンさんがにっこり笑う。
もともと細い目がさらに細くなって、……笑顔がとっても可愛い人だ。
男性にしては少し小柄なせいもあってか、可愛い、という言葉がしっくりきた。
「ありがとうございます」
彼に小さく頭を下げて、私はまたショーケースに視線を戻す。
ケーキ屋さんの店員さんって女の人なイメージが強いけれど、こんな素敵なイケメンさんがいるなら通いたくなっちゃうな。
「もう店閉めちゃうんで残ってるの少ないんですけど……」
じいっとショーケースのケーキを吟味していると、申し訳なさそうな声色でそう言ってくる店員さん。
閉店間際で店内に私しかいないせいか、どうやらこのまま会話を続けてくれるようだ。
「いえ、ギリギリに来ちゃった私が悪いので……」
私の答えに、店員さんが慌てたように首を振る。
全然、来てくださるだけで嬉しいです、なんて焦った声で言ってくれるから、マニュアル対応だとしても嬉しかった。
「お仕事帰りなんですか？」
「はい。ここいつも通るんですけど、今まで気付かなくって」
気さくな人だなぁと思いつつ、彼の質問に答える。
初対面、しかも店員さんと客という関係だけど、彼との会話は何となく心地よかった。
お話上手な人なのかもしれない。
「あはは、やっぱちょっと店の見た目地味ですよね。……あ、そのタルト俺が作ったんですよ」
ちょうど可愛いフルーツタルトに目を向けたところで、さりげなく教えてくれる店員さん。
タルト生地の中に収まっているのは、ピンクと黄色の柑橘系の果物。
きっちり薔薇の形に並べられていて、隙間にはまあるい真っ白なクリームが乗っている。
……すごく可愛い。
「すごい、綺麗ですね。これ何の果物なんですか？」
「グレープフルーツです。もう旬も終わりなので、今日までかなって」
「へえ！」
限定もの、と聞くと思わず興味をそそられるのが人間です。
見た目も可愛いし美味しそうだし、これにしようかな。
……うーん、でもガッツリ甘いものが食べたい気分でもあるしなぁ。
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作者名：暁☆ | 作成日時：2023年6月15日 0時
