55話 ページ10
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でも違ったんだね、と言葉を続ける真波くん。
「自転車に乗ることだけが好きじゃない、か。何かAちゃんらしくて好きだな、それ」
そう言って柔らかく微笑む真波くんに、私もそっと笑ってみせた。
私らしい、がよくわからなかったけれど、まあ好きって言ってくれてるから褒め言葉なんだろう。
「真波くんはどうして自転車が好きなの?」
それからちょっとだけ、私も質問を返してみる。
真波くんはうーんと悩んだような声をあげ、また私の前に出た。
「わかるかな……自転車乗ってるとさ、感じない?」
急に前に出た真波くんのさらに前を見ると、まあまあな登り坂に差し掛かることに気付く。
…真波くん、クライマーだもんね。私は置いてかれるだろうな。
「…感じる?何を?」
空気?音?香り?
感じると聞いて思い浮かぶものを、次々と頭に並べていく。
真波くんは振り返って私を見て、それからイタズラっぽく笑った。
「生きてるってかんじ!」
──…真波くんがギアと腰を上げたその瞬間、ぶわりと強い追い風が吹く。
瞬く間に加速した彼の背中に一瞬、真っ白い羽が見えたような、そんな気がして。
「…っ」
気付いたときには、真波くんの背中は遥か遠くにあった。
はらりと視界の端に白い羽の片鱗が落ちた気がして、私は思わず目を瞬く。
当然だけど羽なんてものが実際にあるわけがなくて、そこには普通の地面が広がっていた。
「…びっくり、した…」
私もサドルから腰を上げて、立ち漕ぎ──…ダンシングの体勢に移る。
私はクライマーでも何でもないから普通に登り坂は嫌いだけれど、登らないと真波くんに追いつけないから仕方がない。
瞼の裏にはまださっきの真波くんの加速が焼き付いていて、どくりと胸が高鳴った。……あんなの、初めて見たよ。
黒田さんが真波くんを気にしている理由が、やっとわかった気がする。
……だって真波くん、まだ1年生だ。
1年生であんな加速ができるなら、彼はきっと、まだ、まだまだ速くなる。
一瞬で追い風が来ることを読んで、それにタイミングがピッタリ合うようにギアチェンジとダンシングをして。
あんなの普通はきっとできない。あれはたぶん、天性の才能だ。
──ただ確かにあの加速はすごかったけど、登りでギアを上げている分足への負担も思い。
例えるなら……諸刃の剣、だろうか。
…真波くんが足を壊してしまわないように、私がきちんと見ててあげないと、だね。
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暁☆(プロフ) - poyocooooooさん» コメントありがとうございます!そんなことを言っていただけて光栄です✨️ 荒北さんも手嶋さんもとってもかっこいいですよね!推しを布教できて何よりです!笑 (4月30日 22時) (レス) id: f3c28010ce (このIDを非表示/違反報告)
poyocoooooo(プロフ) - 弱ペダの作品あまり見かけない中でこんなに素敵な作品に出逢えてとても幸せです♡荒北さん推しだった私ですが、この作品を通して見事に新開さん推しになりました😍個人的に総北で手嶋さんと絡めたのが嬉しかったです✨手嶋くんいいですよね…! (4月26日 4時) (レス) @page28 id: 7859abe11c (このIDを非表示/違反報告)
暁☆(プロフ) - 名無し20182号さん» コメントありがとうございます!!嬉しいです🥰 更新頑張りますね! (8月23日 0時) (レス) id: f3c28010ce (このIDを非表示/違反報告)
名無し20182号(プロフ) - 神作すぎて一気見しちゃいました💞めちゃめちゃきゅんきゅんします!!更新応援してます❕ (8月17日 21時) (レス) id: f1e05d66bf (このIDを非表示/違反報告)
暁☆(プロフ) - ちるちるさん» コメントありがとうございます!! 嬉しいです、頑張ります😭 (5月31日 14時) (レス) id: f3c28010ce (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:暁☆ | 作成日時:2020年12月14日 21時