59話 ページ14
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「…えっと…」
頑張れ私、せめて何かひとつはひねり出さないと。
このまま手嶋さんにニヤニヤされて終わりとか嫌すぎる。何か、何か収穫…。
「っ手嶋さんに会えました!」
まあこれしかないよね、と目の前の手嶋さんに彼と出会えたことが収穫だと伝える。
手嶋さんが、へ、とぱちりと目を瞬いた。
「総北の人はこんなに朝早くから練習してるんだなって、すごく感心しました。うちも、負けてられないですね」
実際は出会えた総北部員が手嶋さんだけだったってのもあるけれど、合宿中こんなに朝早く起きているのは素直にすごいと思ったから。
真波くんは総北の合宿は昨日からと言っていたし、だったら昨日はきっとハードな練習メニューをこなしたはずだ。
「……なんつーかさぁ」
少し気恥ずかしそうに目線を泳がせた手嶋さんが、小さく苦笑をこぼす。
「そんなまっすぐ言われると嫌な気しないわ。恥ずいけど」
呆れたような口調とは裏腹に、手嶋さんは頬を薄く赤らめていた。
「別に俺も今すぐ走ろうってんじゃないんだけどな。たぶん小野田……1年のヤツはもう走ってる」
もうロードなかったんだ、と視線をコースの方へ移してまたまた苦笑をこぼす手嶋さん。
「ほんとすげぇんだぜ、今年の1年。偵察に来たんなら1つだけ情報やるよ。今年の総北は3年はもちろんだが、1年がキーになる」
──1年生が、キー。
層が厚い
…そうだよね。きっと箱根学園では3年生がレギュラーのほとんどを占めるけれど、総北高校では違うんだ。
「まあ俺も負けてらんないけどな。…今夜、その1年と勝負すんだよ」
手嶋さんの声に、どこか緊張が混じったような気がした。
少しだけ不安そうに、彼の瞳が揺れる。
「ここで負けたら、インハイには行けない」
その瞳に、声に、私の心音まで速くなった。
きっぱりと言い切った手嶋さんは、2年生だとさっき言っていた。
その2年生の彼がそんなことを言うなんて、本当に今年入ってきた1年生は速いのだろう。
「──じゃあ、絶対に勝ってくださいね。それでインハイで、また会いましょう」
そんなに速い1年生がいるなんて、もしインハイでその走りを見られるのなら、見てみたい。
──でも、今私の目の前にいるのは手嶋さんだ。
まだ会ったことのない1年生より、偵察に来た敵の私にさえ優しくしてくれる彼を応援したいと、素直にそう思った。
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poyocoooooo(プロフ) - 弱ペダの作品あまり見かけない中でこんなに素敵な作品に出逢えてとても幸せです♡荒北さん推しだった私ですが、この作品を通して見事に新開さん推しになりました😍個人的に総北で手嶋さんと絡めたのが嬉しかったです✨手嶋くんいいですよね…! (4月26日 4時) (レス) @page28 id: 7859abe11c (このIDを非表示/違反報告)
暁☆(プロフ) - 名無し20182号さん» コメントありがとうございます!!嬉しいです🥰 更新頑張りますね! (8月23日 0時) (レス) id: f3c28010ce (このIDを非表示/違反報告)
名無し20182号(プロフ) - 神作すぎて一気見しちゃいました💞めちゃめちゃきゅんきゅんします!!更新応援してます❕ (8月17日 21時) (レス) id: f1e05d66bf (このIDを非表示/違反報告)
暁☆(プロフ) - ちるちるさん» コメントありがとうございます!! 嬉しいです、頑張ります😭 (5月31日 14時) (レス) id: f3c28010ce (このIDを非表示/違反報告)
ちるちる(プロフ) - めっちゃ面白かったです!!ドキドキしました…!続きが楽しみです!更新頑張ってください!! (5月31日 3時) (レス) @page27 id: ace1fac0f2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:暁☆ | 作成日時:2020年12月14日 21時