42話 ページ45
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それから彼が、わずかに首を傾げて、一言。
「……1個、食べてみたい」
チラリ、一瞬だけ青い垂れ目が上目遣いで私を見つめる。
とても年上の男子高校生とは思えないあざとさに、私の心臓は爆発寸前まで高鳴った。
「っあ、えっもちろん、ですっ」
思わずテンパって、声が詰まる。
隣にいる葵ちゃんがこっちをじっと見てくるのにも緊張して、私は焦りながらお弁当箱を差し出した。
「ありがと…」
「何Aチャンから飯たかってんだヨ新開!」
新開さんの声に、荒北さんの声が重なる。
新開さんはびくりと肩を揺らして、それから困ったように微笑んで荒北さんを見た。
「いやあ、美味しそうでつい。てゆーか靖友、寿一と喋ってたんじゃないのか?」
「いくら福チャンと喋ってろうが、おめェがAチャンの昼飯とろうとしてンのくらい見えるっつーの」
「人聞き悪いなぁ」
苦笑した新開さんが私の横から立ち上がり、荒北さんの方へ向かう。
後には新開さんに食べて貰い損ねた卵焼きだけが残されて、どうしようもなく寂しい思いが湧き上がった。
そのまま3年生の輪の中に入っていく新開さんの後ろ姿を眺めていると、隣から軽く袖を引っ張られる。
葵ちゃんが体を寄せて、私の耳元でコソコソ聞いてきた。
「Aって新開先輩と付き合ってるの?」
「っまさか!」
慌てて首を横に振る。
バクバクと心臓は鳴り止まなくて、そっかぁと呟いた葵ちゃんの次の一言にさらに鼓動は速まった。
「でも好きでしょ?」
かあ、といっぺんに頬に熱が集まる。
葵ちゃんは小さく笑って私を見ていた。
「ぇ、と、」
私みたいな平凡な子が新開さんみたいな人気者を好きなんて、何だか恐れ多い。
それでも葵ちゃんに嘘をつくなんて考えられなくて、私はそっと首を縦に動かした。
「…うん。でもそんな、付き合えるとか思ってないけど」
言葉にするだけで、改めて自分の新開さんへの気持ちを実感する。
──…私は新開さんのことが好き。
「ええ、でも今めっちゃ仲良さそうじゃなかった?お似合いだよ!私Aのこと応援するけどなぁ」
ヒソヒソ声のまま、葵ちゃんがそう言いながら笑ってくれた。
私は慌てて首を振り、答える。
「新開さん、誰にだって優しいもん。ありがとう葵ちゃん」
距離が近いのもまっすぐ目を見つめてくれるのも、別に私だけじゃない。
自分で言って少し悲しくなって、ワガママな自分に思わず苦笑が零れた。
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暁☆(プロフ) - 断然ポカリ派民さん» コメントありがとうございます!嬉しいです(*^^*) (2020年9月23日 17時) (レス) id: f1423fd483 (このIDを非表示/違反報告)
断然ポカリ派民 - ヤバい葵ちゃんタイプ (2020年9月10日 21時) (レス) id: 60ae0496f5 (このIDを非表示/違反報告)
暁☆(プロフ) - 断然ポカリ派民さん» すみません、ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです (2020年8月29日 5時) (レス) id: f1423fd483 (このIDを非表示/違反報告)
断然ポカリ派民 - まだかな♪まだかな♪ (2020年8月28日 21時) (レス) id: 60ae0496f5 (このIDを非表示/違反報告)
暁☆(プロフ) - 断然ポカリ派民さん» ありがとうございます(´˘`*)更新早く出来るように頑張りますね! (2020年8月16日 5時) (レス) id: f1423fd483 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:暁☆ | 作成日時:2020年5月1日 0時