30話 ページ33
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福富さんが帰って数分後。
サーヴェロを引いてきた新開さんが、私の前で止まった。
いつもみたく柔らかい笑みを浮かべる。
「お待たせ。急にごめんな」
「いえ、新開さんと走れるの嬉しいです!」
正直な気持ちを言えば、新開さんは嬉しそうにそっか、と言ってくれた。
新開さんの低い声が弾むのを聞くと、こっちまで嬉しくなってしまう。
「いつものコースを1周まわろうか。Aちゃんもわかるよな?」
「はい!」
新開さんに続いてロードに跨った私は、大きく頷いてみせた。
彼の少し後ろを、自慢のキャノンデールでついていく。
いつもは饒舌…ってわけではないけれど、ゆったりと会話してくれる新開さんは今日は静かで、何だかそれが落ち着かない。
国道1号線を下りきったところで沈黙に耐えきれなくなった私は、そっと口を開いた。
「…あの、新開さんってスプリンターでしたよね」
最初の頃抱いていた私の予想は間違いではなかったらしく、東堂さんから貰った部員のデータに、彼はスプリンターだと書かれていた。
ちなみに福富さん荒北さんはオールラウンダー、東堂さんは知っていたけれどクライマー。
真波くんも自己申告通りにクライマー。黒田さんもクライマーで、泉田さんはスプリンターだ。
それから銅橋くんがスプリンターだったのも覚えている。
「うん?急だな?そうだけど…」
振り返って首を傾げる新開さん。
そんなちょっと大袈裟な動作も、彼には何故か似合ってしまうのだから不思議だ。
「えっと、やっぱり予想通りだなってずっと思ってて。新開さんは速くてかっこいいって泉田さんも言ってました」
元々は沈黙から抜け出すためについて出た言葉。
何て言って会話を繋げればいいのかもわからず、とりあえず頭に浮かんだ泉田さんの言葉を代弁しておいた。
ここ最近でわかったけれど、泉田さんはすっごく新開さんに憧れている。
「はは、そうか」
にっこり、新開さんがまた微笑んだ。
いつも飄々と笑っていて余裕があって、 かっこよくて。
…なのに今日の新開さんの笑顔は、どこか不安そうに見えた。
「……どうして、誘ってくれたんですか?」
そっと呟く。
新開さんは青い瞳を瞬いて、それから「ん?」と聞き返した。
「今日。何か私に、言いたいことがある…ん、です、よね」
ばくばくと心臓が鳴り響く。
図々しいのはわかってる。…でも、新開さんの不安を少しでも取り除けたらいい、なんて思ってしまった。
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暁☆(プロフ) - 断然ポカリ派民さん» コメントありがとうございます!嬉しいです(*^^*) (2020年9月23日 17時) (レス) id: f1423fd483 (このIDを非表示/違反報告)
断然ポカリ派民 - ヤバい葵ちゃんタイプ (2020年9月10日 21時) (レス) id: 60ae0496f5 (このIDを非表示/違反報告)
暁☆(プロフ) - 断然ポカリ派民さん» すみません、ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです (2020年8月29日 5時) (レス) id: f1423fd483 (このIDを非表示/違反報告)
断然ポカリ派民 - まだかな♪まだかな♪ (2020年8月28日 21時) (レス) id: 60ae0496f5 (このIDを非表示/違反報告)
暁☆(プロフ) - 断然ポカリ派民さん» ありがとうございます(´˘`*)更新早く出来るように頑張りますね! (2020年8月16日 5時) (レス) id: f1423fd483 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:暁☆ | 作成日時:2020年5月1日 0時