28話 ページ31
・
福富さんと荒北さんが仲良く外に出ていくのに対して、新開さんただ1人がボトルを持ったまま不意に立ち止まる。
「…?新開さん?行かなくていいんですか?」
不思議に思って尋ねれば、新開さんがチラリと私を振り向いた。
ちょっと迷ったように視線を揺らして、それからその青い綺麗な目で私を見つめてくる。
「…Aちゃん」
低くて柔らかい、大好きな声。
まっすぐ私を呼んだ新開さんが、少し不安げな表情を見せた。
…初めて見る。彼のこんな
──だから私は、そんな迷子みたいな顔をする新開さんに向かって微笑んでみせた。
私の持っているありったけの優しさを込めて。
「どうしたんですか?」
──新開さんが小さく笑って、それから私の方へ体を寄せてくる。
いつもの何倍も、距離が近い。もう少しで肩が触れそうだ。
「…あのさ、ちょっとだけ、付き合ってくれないか?」
ひそ、と耳元で囁かれる。
東堂さんにもやられたことあったけど、それとは比較できないほどに心臓が暴れ始めた。
ばくばくとありえないくらい大きな心臓の音が響き渡る。
「えっと…どこに?」
何となく私もひそひそ声で返すと、新開さんはまた小さく笑った。
「部活終わったあとでいいから、一緒に走りたい。少しだけでいいからさ、甘えさせてよ」
どきん、なんて漫画のような音が、私の耳には確かに鳴り響く。
頬に熱が集まる。顔が熱くて、胸が苦しい。
──部活終わったあと。一緒に。甘えさせて。
耳元で囁かれるには少し刺激的すぎるし、第1最後の甘えさせてって何…………あ。
いつかの昼休み、ウサ吉に餌をやったときの彼の言葉が頭をよぎった。
『Aちゃんは本当に優しいな。優しすぎて甘えちまいそうだ』
──あのとき新開さんは、そんな風に言って悲しそうに笑っていた。
きっと彼は今日、その悲しさの理由を私に話してくれるんだ。
「…新開さんになら、甘えられるなんて本望ですよ」
確かあのとき私は、こんな風に言って返したっけ。
記憶を頼りにそう呟いて顔をあげると、いつも通りに優しく微笑んだ新開さんが目に入った。
ぽん、と頭を撫でられる。
「じゃあ部活の後…そうだな、校門のとこで待っててくれよ」
久しぶりに、新開さんと走れるんだ。
嬉しくて嬉しくて、何よりも嬉しくて、私は思いっきり笑顔を作って頷いた。
「はいっ」
・
300人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
暁☆(プロフ) - 断然ポカリ派民さん» コメントありがとうございます!嬉しいです(*^^*) (2020年9月23日 17時) (レス) id: f1423fd483 (このIDを非表示/違反報告)
断然ポカリ派民 - ヤバい葵ちゃんタイプ (2020年9月10日 21時) (レス) id: 60ae0496f5 (このIDを非表示/違反報告)
暁☆(プロフ) - 断然ポカリ派民さん» すみません、ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです (2020年8月29日 5時) (レス) id: f1423fd483 (このIDを非表示/違反報告)
断然ポカリ派民 - まだかな♪まだかな♪ (2020年8月28日 21時) (レス) id: 60ae0496f5 (このIDを非表示/違反報告)
暁☆(プロフ) - 断然ポカリ派民さん» ありがとうございます(´˘`*)更新早く出来るように頑張りますね! (2020年8月16日 5時) (レス) id: f1423fd483 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:暁☆ | 作成日時:2020年5月1日 0時