17話 ページ18
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「お待たせAちゃん。帰ろうか」
「はいっ」
ひらりとサーヴェロに跨る新開さんに続いて、私も自分の愛車に跨る。
ペダルに足を乗せるこの音が好きだ。
「ちょっと寄り道していかないか?俺腹減っちまって。下のコンビニまで付き合ってくれると嬉しいんだけどさ」
ペダルを踏み込むと、景色がぐん、と後ろに流れる。
新開さんのお願いに、私はもちろんと頷いた。
「門限までまだあるし、いくらでも寄り道しましょう!」
「Aちゃんはロード乗ってたいだけだろ」
クスクス笑いながら突っ込んでくる新開さん。否定できないけど。
「ふふ、だって楽しくないですか?新開さんと走ると特に!」
少し前を走る新開さんの背中に、思いきって言ってみる。
たぶん彼は、いつもの何倍もゆっくりと走ってくれているはずだ。
だから私と走るのが楽しいとは思ってないかもしれない。
──でも私は、あなたと走れるこの時間が楽しいんです。
振り返った新開さんが、はにかんだ笑顔を見せてくれる。
「おめさん口説くの上手だなあ。俺もめちゃくちゃ楽しいぜ?」
ふわふわの赤髪、柔らかい夕日。
綺麗だなぁ、なんて男の人には似合わないような形容詞が浮かんできて、私も小さく笑い返した。
新開さんが、ハンドルから左手を離す。
その手を銃みたいな形にして、私に向けてきた。
ばきゅんポーズ、だったっけ。練習中にもたまにやってるやつだ。
「Aちゃん、彼氏いるのかい?」
なんで撃たれたのか分からないままペダルを踏んでいると、前へ向き直った新開さんが軽い調子で聞いてきた。
ふえ、なんて変な声が零れて、慌てて首を振る。なんてこと聞いてくるんだ。
「いないです!いたこともないです!」
焦って聞かれてないことまで答えてしまう。どうせ私は自転車が恋人の非リアです。
新開さんこそいそうだよなぁ、なんて思っていると、彼は声をあげて笑った。
「そんな焦んなくても。でも偶然だな、俺も同じ」
「えっ」
新開さんに彼女がいないことがわかって、なぜか気持ちが上がってしまう。待って私すごい嫌な子。
……でも、いないんだ。
「今までずっとロードが彼女みたいなもんだったしな。今はウサ吉もいるし」
「ウサ吉?」
初めて聞く名前にペット?と首を傾げてみるものの、新開さんは寮住まい。寮ではペットは飼えないはずだ。
スピードを落として私に並んでくれた新開さんが、柔らかく微笑んだ。
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暁☆(プロフ) - 断然ポカリ派民さん» コメントありがとうございます!嬉しいです(*^^*) (2020年9月23日 17時) (レス) id: f1423fd483 (このIDを非表示/違反報告)
断然ポカリ派民 - ヤバい葵ちゃんタイプ (2020年9月10日 21時) (レス) id: 60ae0496f5 (このIDを非表示/違反報告)
暁☆(プロフ) - 断然ポカリ派民さん» すみません、ゆっくりお待ちいただけると嬉しいです (2020年8月29日 5時) (レス) id: f1423fd483 (このIDを非表示/違反報告)
断然ポカリ派民 - まだかな♪まだかな♪ (2020年8月28日 21時) (レス) id: 60ae0496f5 (このIDを非表示/違反報告)
暁☆(プロフ) - 断然ポカリ派民さん» ありがとうございます(´˘`*)更新早く出来るように頑張りますね! (2020年8月16日 5時) (レス) id: f1423fd483 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:暁☆ | 作成日時:2020年5月1日 0時