赤い印は16回目。 ページ7
大人になるのがいやだった。
子どもでいたかった。
2月9日、私の誕生日。
赤い印、いやな印。
その日になれば、素敵なプレゼント、
素敵な料理に素敵なケーキ。
でも私はそれよりもあの子と話す方が嬉しかった。
いつもは普通のお人形。
きらきらふわりときれい、金髪に。
なんだか鏡みたいな、幻想的な、赤い目に。
あの子と話せるのは私の部屋、誕生日の日だけ。
その日はいつも一緒におはなしする。
「わたしね、思いついたのよ」
「なぁに」
あまいわたあめを水に溶かしたような声がする。
「あのね、退屈だって思えば、時間は遅く感じるのよ。
でもね、楽しいことをしていると、時間は早く感じるの」
「だからね、私この時間を退屈だと思うことにするわ。
あなたと長くいたいもの」
心の時間稼ぎ
薄いピンク色の空気に、水をさすような。
「そう、なんだか悲しいなぁ」
声が少し掠れていて、私も少し悲しくなる。
退屈だと思って話していても、やっぱり楽しい。
年に一度、彼女と話できるとき。
退屈だなんて、思えるはずがない。
「さっき退屈だと思っていようって、私思っていたのよ。」
「うん」
「でもね、やっぱり楽しいわ。退屈だなんて、どうしたって思えないの」
「…わたしも、思えないよ」
さっきと変わって嬉しい声。
掠れてない、きれいに鳴ってる。
「うれしい？」
「うん、とても」
そろそろ終わりの午後11時49分
「また来年？」
「…」
赤い印は16回目。
「…どうしたの」
「…あのね、もう、話せないの」
「え」
午後11時52分
目眩がする。
「どういうこと、？」
「来年の誕生日からはね、もう、会えないよ」
「なんで、冗談でしょ？」
「ううん、違うよ」
午後11時56分
外では猫が泣いている。
「…もう、話せないの」
「うん、そうだよ、」
「わたしのことが嫌いになったの」
「ううん、違うよ」
「なんで、」
午後11時58分
長い袖がくすぐったい。
「……」
「、でもね、私はみてるよ。ずっと」
「、知ってる、」
「そう、わたしね、とても楽しかったよ、」
「…私も。」
「そっかぁ、うれしいな、」
午前0時00分
楽しい時間は早く感じる。
彼女はいなくなっていて。
いつもの人形姿になっていた。
さっきは楽しかったけど、今は退屈で仕方がない。
部屋を明るい黄色から、
寂しい浅葱鼠色にぬりつぶす。
小さくなった公園。
体育館裏に溜まる期待。
灰になるまで。
赤い目は冷たくなっていた。
どうか忘れぬままで。
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作者名：花の染。 | 作成日時：2022年5月29日 14時
