花も恥じらう乙女 ページ5
花の暖かさが鼻を掠めた1年の春。
私は絶世の美女、というものであっただけで、
全校男子に狙われた。
世にも恐ろし、
全く奇妙である。
姿勢良く、花が一本そこにあるように
立てば、たちまち耳を傾ける。
でもあの人の耳は聴こうとしなかった。
じっとりとしたセミロングを耳にかけ、外を見る。
座れば、たちまち声が出る。
でもあの人の口は動かなかった。
赤いリボンひらひらさせて、
歩けば、たちまち視線が集まる。
でもあの人はこちらを見なかった。
立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花
彼女そのものであり、彼女のことを言うのでは？と、誰でも思ってしまうほどに当てはまっているはずなのだ。
だがあの人がいつも見るのは、熱い視線を送るのは、
優しいリップクリームが香る、あの子だった。
あの人は顔で選ばないタイプだと思うけれども、
でも、それでも外見は気にするもの。
私は誰にでも優しくしてるし、決して性格が悪いわけじゃない。
ねぇなんであの子がいいの？
私の方が良い子でしょ？
ねぇなんで？
放課後、器楽部の楽器の音が校内を支配する。
体育館裏に呼び出されたとかなんとかで、
今日は外が騒がしい。
体育館ではバレー部が練習してて、シューズが体育館の床を摩擦する音が響いていた。
私も女子高生で、恋愛話は勿論好き。
そうなれば当然見に行くのだ。
付き合ってください。
響いた声。
その声はあの人に酷似してた。
あの子とあの人。
足元には猫1匹。
なーと鳴いて、愛くるしい。
でも耐えきれないからその場を離れた。
次の日、いつも通り誰よりも早く学校来てみれば、
どうやら先客。
静かな教室を寂しい水色に染め上げていた。
ねぇなんであの人は泣いてるの？
ねぇ、どうしたの。
ぐしゃぐしゃになってる綺麗な顔をあげて、
私は察した。
何回も見たことがある顔だから。
どうやら振られたらしい、
あの子は、あの人の顔をこんな顔にさせられるんだ。
まぁ、次の日も引きずって泣いてしまうほどなの。
どうやら青春さんは汗と涙でベタベタになるのが好きなご様子。
私に恋させた挙句、自信をつかせなくさせるだなんて、あの人は本当に凄い人、
手を引いた。
もう耐えきれないからこう言った。
ねぇ、私にしない。
その瞬間だけ、蝉の声と、風の声は聞こえなくって、
聞こえたのは、へ、と間抜けた声だけだった。
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作者名：花の染。 | 作成日時：2022年5月29日 14時
