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就職してから、3年以上暮らした部屋。
おっきな川が見えるベランダからの眺めも、
ちょっと狭いキッチンも、
安いけどちゃんと淡い色で揃えた家具も。
取り立てて何があるって訳やないけど、やっぱり
初めてのひとり暮らしの思い出はたくさんあって。
彼との思い出もたくさんあったから、
最後は辛くなってしまったけど。
それでも、やっぱり、大切な場所。
でも、もうこれでお別れ。
あっくんの部屋には家具はひと通り揃っていて、
居候させてもらうわたしが
わざわざ大きな家具を持ち込む必要もない。
どうせニトリで買った安物やし、
わりと長く使ったから、
大体の家具は処分することにした。
ついでに、思い切って
いろんな物を断捨離することにもした。
ひとり暮らしを始めるまでの大切な物は
ほとんどが実家にあるし、
だから必要のない物とは今日でさよなら。
もう着ることもないけど取っといた服とか、
古い雑誌とか、...彼と一緒に買った物とか。
ゴミ袋に突っ込んで、あっくんにまとめてもらう。
仕事でこれからも使えそうな物と、
必要最低限の生活必需品と、
...ちょっとだけの思い出と。
わたしがこれから新しい生活に持っていくのは、
もうそれだけでいい。
その方が、新しい自分に早く近付けるから。
最後まで手に取れへんかった写真立てを、
あっくんが手に取って。
2人の写真を、おっきな手が優しく撫でた。
「...これが噂の、"たかひろ"?」
え、何で名前知っとるの...?
わたし話してる時名前言うたっけ...?
そう思って、驚いてつい目を見開いたからか、
あっくんはわたしを落ち着かせるみたいに
柔らかく微笑んだ。
「昨日な、寝言で言うててん」
『寝言...』
「苦しそうに名前呼んでんの、聞いてしもて。
"たかひろ"って、おんなじ名前が
うちのメンバーにもおるんよ。
やからすごいインパクトあって」
...うん、知ってる、濱田崇裕くんのことは。
そう、やって、彼と同じ名前やったから。
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作者名:りり | 作成日時:2017年6月23日 21時