#29 濱田side ページ29
＊
照史がご飯の誘いに戸惑うなんて、珍しい。
スタッフさんに言われた時の表情を見て、
1番にそう思ったんが始まり。
「照史、今日何かあるん？」
「え、今日？...そんな、何もないよ」
「俺行けるし、気にせんと優先させてええで」
「そんなんお偉いさん来るんやろ、
行けるだけ行った方がええやんか。
行く行く、濱ちゃんだけに任せへんよ」
「ならええけど...大丈夫？」
「大丈夫やって！何もないって！」
そう言うた時に感じた微妙な間も、珍しい。
レギュラーを持たせてもらっとる大阪の放送局の、
お偉いさんたちも来るらしい飲み会に参加とか、
普通なら照史が飛びつきそうな提案やのに。
その後のこそこそ誰かに連絡する感じも、
やっぱり珍しい。
何か予定があったんやろうに、
それを俺らにも隠す訳やし。
...彼女でも、できたんかな。
なんて、これは俺の直感的なもの。
結局照史は俺やスタッフさんと一緒に
その飲み会に参加した。
他のメンバーがまだ仕事やったり
打ち合わせがあったりで行けへんからって、
責任感の強い照史らしい判断やけど。
きっと、会う予定やったはずの彼女ちゃんは
ちょっと切ない思いをしとるはず。
でも、こういう世界の男を好きになったら、
それはもう耐えてもらうしかない。
ごめんな、でもちゃんと好きやで、って
そう伝え続けることしか俺らには出来へん。
こっちのエゴかも知れへんけど、アイドルって
それを覚悟して仕事しとるもんやから。
...まあ、照史の彼女になれるような女の子なら、
ちゃんと分かっとるやろうけど。
「桐山くん、最近プライベートとかどうなん？」
「え、何ですか？プライベート？」
「うん、何かないん！
そういう浮ついた話とかは！」
「そんなんないですよー！
俺ら一応アイドルですもん！」
「その顔でよう言うわ！」
「ちょっと！
それは斉木さんちょっと酷ないですか！？
仮にも俺アイドル！ジャニーズ！」
「あはは、さすが桐山くんツッコミ早いな！
芸人のが向いとるんちゃう！」
「もう皆さん酷いわ！俺歌って踊りたい！」
俺とは少しだけ離れた席で、そんな風に輪の中心に
なる照史はいつもと変わらず笑っとって。
さすが照史やな、って思う。
そんな照史が飲み会中、頻りに話しとったこと。
...それは、最近飼い始めたらしい
ペットの話やった。
＊
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作者名：りり | 作成日時：2017年6月23日 21時
