#16 照史side ページ16
*
「ただいまー!」
家の扉を開けると、
廊下から漏れとる光が目に入る。
ほんのりいい匂いがして、『おかえりなさいー!』
ってAちゃんの声がして。
家に帰って1人やない、この感覚は久しぶりで、
どこか安心しながら廊下を歩く。
リビングダイニングに入ると、
キッチンに立つAちゃんが振り返った。
...って、え、いや、あの。
エプロンとか聞いてへんのやけど。
「...」
『おかえりなさい...どうか、しました?』
「かっ、...あ、いや何でもないごめん」
...可愛い、とか、そんなこと。
昨日今日で間違っても言うたらあかんよな。
そんなこと言うて引かれたら、
せっかくの彼女のための提案が何もならへんし。
Aちゃんは婚約者に裏切られた結果
ここにおるんやし、俺と住むのを
受け入れてくれたんは俺が単なる同居人やからや。
『あの、あっくん嫌いな食べ物とかって...』
「あ、ない!ほとんどない!
チョコレートはあんま好きやないけど...」
『ほんまですか、ならよかった!
何も聞かんと買い物行ってしもたから、
確認しとけばよかったって思って!』
「全然大丈夫、気遣わしてごめんな?
...もう出来るん?」
『あ、はい!もうよそうだけです!
準備しますね、ちょっと待ってください』
もう既に、テーブルにはサーモンのカルパッチョ
らしきサラダが準備されとって。
Aちゃんが冷蔵庫を開けとる間に
ちょっとキッチンを覗くと、うちで1番おっきい鍋で
グツグツ煮込まれとるカレーと、
何かが入っとるっぽい小さい鍋が見えた。
『コーンスープ、』
「え、何?」
『わたしの家、カレーの時はコーンスープって
何でか決まってるんです。
やから、コーンスープにしちゃいました』
Aちゃんは穏やかな顔で、
小さい鍋の蓋を開けた。
ちょっとの動きで、
料理し慣れとる感じがすごい伝わる。
正直、ちょっと、予想外かも。
『...料理とかしなさそうやのに』
「...え?」
『今、そう思いませんでした?
ふふ、あっくんも嘘つけへん人ですよね』
『カレー付けちゃいますねー!』って、
Aちゃんはお皿を出して俺に見せた。
昨日ひと通りの食器やら調味料やらの
場所は教えたから、カレー皿の位置も
問題なく見つけ出せたみたい。
...これは、想像以上に、楽しいかもしれん。
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作者名:りり | 作成日時:2017年6月23日 21時