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「『いただきます!』」
目の前には、茹でたばっかりのお蕎麦と
スーパーで買ってきた天ぷらが並んで。
2人で目を合わせて、手を合わせる。
「俺が全部やるで、
今日だけはお客さんやっとり!」って、
あっくんは準備を何も手伝わせてくれへんかった。
とりあえずソファーに座って
テレビを付けとったけど、ほとんど見ずに
あっくんがお蕎麦を茹でるのをぼーっと眺めてて。
ああ、これは現実なんや。
わたしの目の前でお蕎麦を茹でてるのは、
本物の桐山照史なんや。
現役バリバリアイドルのあっくんと、
ひとつ屋根の下で暮らすんや。
ひたすら、暗示みたいにそう自分に言い聞かせた。
そうやないと、この不思議な現実を
受け入れきれずにまたふらふらバックパックを
持って飛び出してしまいそうになるから。
「うっわあ、美味いこれ」
『ナスですか?』
「そう、Aちゃんもはよ食べな冷めてまうで」
『はい...、わ、ほんまや美味しい』
「な、な、やんな!
トースターで焼き直したんが良かったんかな、
さすがヘルシオはちゃう」
『ヘルシオ...』
「そう、あのヘルシオ最近買うてん。
ちょっと高かってんけど最新型にしてんよ、
やっぱ全然性能がちゃう」
『...料理、するんですね』
「当たり前やん、ひとり暮らしもわりと長いしな!
俺料理するん好きやし、食べるん好きやし。
あ、でも食べ過ぎには一応気をつけてんねんで、
さすがにアイドルやから!」
あっくんは、ほんまに美味しそうにご飯を食べる。
お昼のパスタの時も思ったけど、
お蕎麦も天ぷらもあっくんが食べるから
美味しそうに見えるんやないか、って思うくらい。
お箸の使い方も綺麗やし、
盛り付けも使っとる食器もおしゃれで。
「...アイドルやのになあ」
『...え?』
「アイドルやのに料理するし美味そうに食べるし、
思ったより普通の人やん」
『は...』
「今、そう思わんかった?
顔に書いてあるわ、Aちゃん嘘付けへん子やろ」
「お蕎麦伸びるで!はよ食べ!」って、
笑いながらあっくんは言う。
急かされて食べても、ちょっと奮発して
買ってくれた高いお蕎麦はほんまに美味しい。
わたしの考えとること、全部お見通し。
ああ、わたしこんなんでやってけるんやろうか。
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作者名:りり | 作成日時:2017年6月23日 21時