#16 顕嵐side -1year past- ページ16
＊
ながつの足がぴたっと止まった。
俺を振り返るその表情には、
「何を言ってるのか分からない」って書いてある。
...そんな顔するくせに、何で自分の気持ちに
ずっと気付かないのかが不思議すぎる。
けど、それがながつだ、仕方ない。
「え、Aバスケ部の応援来てくれないの...」
「いや分かんねえけどさ。
でも、じんがサッカー部の方に誘ってたのはまじ」
「えー、雪乃そんなこと言ってなかったけどなー！
でも顕嵐が言うならまじだよな」
「...嘘だ、毎年『わたしが応援してんだから
頑張んなきゃ怒るよ』って言ってくれるのに...」
みるみるうちに、呆れるくらい分かりやすく
暗い表情になるながつ。
「どうしよう、来てくれないのかな」って、
肩を落としてしゅんとする。
こんなながつがほっとけなくて、
あまつさえ可愛いとか思ってしまうんだから
俺も大概重症だ。
「本人にさ、言ったことある？」
「...何を？」
「バスケ部の応援に来てほしいってこと」
「...えっと、」
「毎年、ってか大会のたびに来てくれるのが
当たり前になってたから、
意外とちゃんと言ったことないんじゃねえの？」
「...ない、かも」
「ちゃんとお前も言えば？
実際今どっち行くことになってんのかは
俺には分かんねえけど、
とりあえずながつの気持ちちゃんと伝えたら、
じんに誘われてたとしても
お前のことも考えてくれるかもじゃん」
「...考えてくれる」
「うん、『怜央が言うなら行ってあげるよ』
とか言いそうじゃね、あいつなら。
...はい、じゃあ長妻怜央くん
今からいきましょうか」
「...今から、うん、うん！行ってくる！
ちゃんと「来てほしい」って言ってくる！
ありがとあれん！！」
ものの数十秒でながつは瞳の光を取り戻して、
きらっきらしたいつもの笑顔になった。
俺の手をぎゅっと握って、
「また明日ね！」って背を向けて駆け出して。
ながつの姿はすぐに見えなくなった。
「何じゃありゃ、犬かよ...」
隣で唖然とする岸がぽつりと呟く。
俺から見れば岸だって十分犬っぽいと思う、
単純で何かを追いかけると
周りが見えなくなるとことかながつと一緒。
...A、これで貸し1だからな。
お前もさっさと素直になれっつーの！
＊
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作者名：りり | 作成日時：2017年6月7日 21時
