031 Hokuto ページ32
＊
年甲斐もなく、早く着いてしまった。
いや、この歳だから、こんなにも緊張するのか。
まだ、海も空も真っ暗。
電車もまだ1本だって動いていない、
朝にもなっていない深夜の海沿いは、
たまに大きなトラックが通るくらいで、
ぽつんぽつんとした街灯の明かりしかない。
眺める漆黒から聞こえてくる、
聞き慣れているはずの波の音だけが、
ざざ、ざざーって、やけに耳に残る。
白石が来たら、どんな顔したらいい？
どうしていいか分からないこの気持ち自体がもう、
既に生徒と教師の域を超えていることくらい、
自分でも痛いほど分かっている。
こんな風に会っちゃいけない、でも、
どうしてだって、こんな風にあの子に会いたい。
呼び出す時間も、その取って付けたような理由も、
全部俺のわがままで、エゴなのであって。
どうして白石が生徒で、どうして俺が教師なのか、
そんな、誰にも問い詰められない根本的な問題に、
結局立ち返っては心が張り裂けそうになる。
遠くから、少しずつ近付く細い光。
彼女の走らせる自転車の、
いつもは鮮やかに見える淡いペンキの赤が、
朝の暗闇に吸い込まれて消えている。
『...お待たせしちゃってすみません、』
「全然。おはよう」
『おはようございます、』
「自転車、そこ止めて降りておいで」
...なあ、樹。
きっと、あの人もあの朝、
こんな気持ちだったんじゃないかな。
＊
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作者名：りり | 作成日時：2019年9月1日 20時
