双黒の監視者【中原中也】弐 (ページ28)

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58話ページ28

蘭堂「いや太宰君、張守君……この歓迎をされたら、普通の人間は《殺す》と言うと思うが……」

部屋の飾り付けを手伝いながら、蘭堂が恐る恐る言った

「『なんで？』」

太宰とAはどこまでも長い深紅の飾り紐を持って、不思議そうに言った

太宰「どこからどう見ても《中也君･解放されておめでとう＆お疲れ様パーティ》だよ。菓子と飲み物、いい感じの音楽。仲間の笑顔。他に何がいるんだい？」

『気持ちもこもってるよ、多分。これだけ豪華な飾り付けと食べ物飲み物があれば、戦闘狂の中也も喜ぶよ。大丈夫だと思うけど、何か足りないかな？』

蘭堂「若い人達の事はよく判らぬ……が、少なくとも《落とし穴》ではないと思うが……」

蘭堂が飾り付けの手伝いをしながら、小動物が困った時のような顔で床を見た

落とし穴は絨毯によって完全に隠されていた

照明の絞られた部屋で、入口から見える巨大なホールケーキの手前

さぁ奥へ、と促されれば、必ずそこまで行くであろう位置

『はははっ……ただの落とし穴じゃないよ！羊の面々に祝福され、奥へと通された中也は、ここですとんと地下階に落ちる。勿論、その程度の罠では中也は躓きもしない。下の床を蹴って、直ぐに戻ってくる。けど残念、下の層に足場は無い。何故なら下はアメンボだって溺れ死ぬこと請け合いの、どろどろの軟泥だから』

太宰「幾ら中也でもこれを蹴って一瞬で脱出するのは難しい。そして……ふふふ、このパーティの本当の主賓は、泥の中でもがく中也の上から降ってくる二十キロにも及ぶ大量の小麦粉だ。落とし穴が開くと同時に、ロマンチックというよりはちょっと多めの粉雪が、彼の体をドカッと覆い尽くす。中也君の重力は直接触れた物体にしか効果を発しないが、小麦粉は微粒子すぎるので、触れていない残り小麦粉が大量にのしかかってきて弾き飛ばせない。結局、彼は窒息死しない為に口の周りに重力を集中させ、どうにか呼吸しながら、、唯一の抵抗としてあらん限りの罵詈雑言を上階の僕らに向けて叫びまくるだろう。僕らはそれを宴用音楽として聞きながら、優雅に菓子を食べるのさ。ああっ、今からゾクゾクする！」

クリスマスの前日のような少年少女のような笑みで語る太宰とA

一方の蘭堂は──完全に引いていた