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―Aside―
A「おやすみなさい、杏寿郎さん」
杏「おやすみA」
私が敷いた布団に
杏寿郎が身を預けるのを見届けて、
私は襖を静かに閉じた。
夕暮れ時に抱きしめられた感覚を忘れられないまま、
気がつけば夜になっていた。
あの後どうやって夜ご飯を作り、
その他の業務を終わらせたのか
正直、あまり覚えていない。
そんなぼんやりとした気持ちは、
1日の終わりまで続いていた。
とにかく思うことは、
あの時、槇寿郎に見られていれば
今頃私の命はなかっただろう、
と言うことだ。
そんな命拾いした気持ちで、
私は自身の女中部屋へと
静かに戻った。
質素な箪笥から寝巻き用の浴衣を取り出し、
それから大きめの手ぬぐいも
忘れずに懐に仕舞う。
そのまま浴室へと向かうため、
再び自身の部屋を後にした。
A「……」
隣の春蘭の部屋から僅かな灯りが
床と襖の隙間から漏れ出している。
このところ私は、就寝前と起床後に
決まって春蘭に声をかけるようにしていた。
こんな夜遅くにまだ起きているのか。
眠れないのだろうか。
一人で泣いていないだろうか。
少しの不安は募るものの、
風呂上がりにでも顔を出すか、
と心の中で呟く。
彼女の部屋にも背を向けて、
私はいそいそと浴室へ向かった。
先程杏寿郎が入ったばかりの浴室は、
まだ湯気を保ったままである。
ふんわりと石鹸の香りが鼻をくすぐった。
女中の私が風呂に入るのは、
勿論この屋敷の中で最後で
大抵いつも夜更けである。
そして何もなければ、
その後すぐに就寝に着くのが習慣となっていた。
私は作業着を脱いで、下着を脱ぐ。
この間できた怪我の具合を確認しながら
湯船へと歩けば
心地よい温風が髪を撫でた。
桶でお湯をすくい
それを肩からかければ
唯一の至福の時間の始まりである。
A「……ふう」
もうこれ以上余計なことを
考えるのは今日はやめにしよう。
そう心に決めても、
先程までここに杏寿郎が居たのかと思うと、
どうしようもなく居た堪れない気持ちになるのだった。
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あいふぉん - 初めまして。とても素敵なお話で一気に読んでしまいました!!煉獄さんが本当にかっこよすぎて夢主が可愛すぎてっっ!!続き楽しみにしています!! (2021年10月5日 0時) (レス) id: 367ee183e7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:わたあめ | 作成日時:2021年8月27日 20時