3 煉獄家の女中が素直になれない理由【煉獄杏寿郎】 (ページ33)

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―春蘭side―

今までに見たことのないほど

柔らかい杏寿郎の笑顔に

私も見惚れていた。

しかしそれ以上に、

杏寿郎に頭を撫でられているAの

その横顔が美しすぎる。

張り付いたいつもの表情とは一変。

それは、20歳の女性に相応しい、

解けた表情だった。

同性の私から見ても、

震えるほど綺麗である。

杏「だからまた、何も心配せず

さっきのように笑ってくれ」

ようやくAが、杏寿郎の瞳を見上げた。

杏「Aが笑うと俺は嬉しい」

まるで子犬のように嬉しそうに微笑んだ彼に

頬を薄紅色に染めるA。

そんな彼女から、

私はどうしようもなく目を逸らせなかったのだ。

Aは嬉しそうに少し頬を緩ませ、

そしてどことなく儚げに

杏寿郎の左手を離す。

そして彼女は立ち上がるなり、

すぐさまこちらに近づいてくる。

私は焦ってこの身を丸め、

襖の影に隠れた。

しかし、私の緊張とは裏腹に、

Aは勢いよく方向転換し

杏寿郎の元へと走り出した。

桜の香りがここまで飛んでくる。

そのままAは何かに躓くように

杏寿郎の胸へと倒れ込むので、

彼は咄嗟にAをその腕で受け止めるのだった。

杏「！？」

一気に赤面する杏寿郎とは裏腹に、

Aは彼の胸に埋もれて

一向に起きあがろうとしない。

そしてこう呟くのだった。

A「畳に躓いてしましました。

　足を挫いて動けないので、

　しばらくこのまま待機してもいいですか」

そう言って彼女は、

杏寿郎の背中にその細い腕を回し、

目一杯抱きしめるのだった。

してやられたような、

嬉しいような、

恥ずかしいような。

そんな表情を見せながら

杏寿郎は口をつぐんだまま

その逞しい腕でAを抱き寄せる。

春「……」

彼はAの肩にその顔を埋めた。

その瞳は、まるで泣き出しそうで

しかし闘志に燃えているようにも見えた。

杏「…構わない」
 
 
 
抱き合う二人を、
 
私はいつまでも見つめていたかった。
 
 
息をするのを忘れるほど、
 
美しかったから。