3 煉獄家の女中が素直になれない理由【煉獄杏寿郎】 (ページ3)

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―杏寿郎side―

杏「……」

透明な水が優しい音色を奏でては、

流れていく。

なんの変哲もない川の流れを眺めていた。

蝶屋敷からの帰り道、

未だ目を覚さないAを抱えながら

気づけば川のほとりに腰を下ろしていた。

猛暑日に、ここまでどのように歩いてきのか

あまり覚えていない。

一つ確かなのは、もうすぐ日が暮れるということだ。

任務帰りに寄り道をすることは、

正直珍しいことだった。

それほど昼間に聞いたしのぶの言葉は重かったのだ。

同時に、今の俺には、

その言葉の細部までは理解し難いものであった。

A「……杏寿郎さん？」

膝を抱え込む俺の隣で、

ようやく彼女が俺の名前を呼ぶので

反射的に振り向く。

俺の肩にその頭を預けていたAは

気持ち良さそうに伸びをしている。

俺はそれを見ながら

少しほっとした気持ちで頬を緩めた。

A「ただの切り傷だったでしょう」

しのぶが貼ったガーゼを撫でながら

彼女は俺を見るので、

俺は素直に頷く。

杏「すまない！
　
　 ……俺はまた、

…判断を見誤った」

透明な川の水は

すでに夕日を映し出していた。

俺はその景色から目を離せないでいる。

と言うのは口実で、

ただ彼女と目を合わせる準備が

整っていなかったのだ。

数秒ほどの心地悪い沈黙。

その後に聞こえてきたのは彼女のため息だった。

A「………このままどこか遠くに行きたいです」

突拍子もない発言に俺は状況を読み込めない。

そっと隣を見ると、

彼女は至って真剣な眼差しで、

川の流れを眺めていた。

汗ばんだ額が、きらきらと光っている。

A「……鬼のいない遠くの国まで、

二人で逃げたいです」