3 煉獄家の女中が素直になれない理由【煉獄杏寿郎】 (ページ15)

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ー春蘭sideー

艶やかな黒髪に、端正な顔つき。

しなやかに魅せるその作法や姿勢。

誰もが求める体型。

こんなに大きな屋敷を一人で預けてもらえるほどの

女中としての実力。

杏寿郎からも特別に愛されているように見えた。

彼女は一体どれほど恵まれた人生を

送ってきたのだろう。

去年、大好きだった母親を失くした私にとって、

Aの存在は

頭の先から爪先まで羨ましいものだった。

そんな心細く思っていた私を、
 
化け物から守ってくれた杏寿郎。

 
彼を忘れられないまま、

初恋をここまで引きずってきた私に

ようやく巡ってきたチャンス。

なのに、またしても私は、

Aを前に、そのチャンスを掴めずにいるのだ。

しかし、困ったことはそれだけではない。

A「春蘭。

　杏寿郎さんが朝の訓練を終わられる頃には

　米は炊き上がってなければなりません。

　何度も言いましたね」

真剣な眼差しに戻ったAが

こちらに向かってくるので

私は急いで米を研ぎ始める。

すると、割烹着の袖が落ちてきてしまうのだが、

それに気がついたAが

すぐに優しく捲り上げてくれる。

春「あ、ありがとうございます」

A「うん。構わないよ」

困ったこと。

それはAが

あまりにも優しいということである。