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―しのぶside―
しのぶ「お待たせしました」
蝶屋敷の中庭に足を運んだ私は、
すやすやと眠る二人に、そう声をかけた。
朝方告げた私の言葉を理解した杏寿郎は、
大人しくこの中庭で待ってくれていた。
縁側で未だ気絶したAを抱き抱えるようにして
その端正な顔のまま、眠りに落ちてしまっている。
夏風に吹かれる二人の気持ち良さそうな寝顔を見ていると、
姉と実弥の関係を思い出してしまう。
庭天日干しされた洗濯物は、
蒸し暑い風に小さくその身を揺らし、
二人を見守るように影を作っていた。
しのぶ「……」
カルテを脇に、
私はAの元へ膝を屈める。
触診するために、彼女の前髪に手を伸ばすと、
その手は瞬時に分厚い手に掴まれる。
杏「……っ」
しのぶ「…?」
何者かがAに触れようとしているのを
敏感に察知し、
杏寿郎は意識のないまま私の手を鷲掴んだのだ。
さらにその間、彼は反対の腕で
Aを自身の方へ抱き寄せる仕草も見せた。
そして自身の勢いから、ようやく彼は目を覚ます。
寝起きでぼんやりとしている杏寿郎と目が合うので、
私はいつもの微笑みのまま
彼の意識が覚醒するのを待った。
杏「む、すまない」
それだけ言うと、彼は私から手を離し、
目を合わせないままその身を起こした。
私は何も返事をせず、
眠ったままのAの触診を始める。
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作者名:わたあめ | 作成日時:2021年5月4日 20時