2 煉獄家の女中が鬼殺隊に入らない理由【煉獄杏寿郎】 (ページ47)

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―しのぶside―

杏寿郎が彼女のことに関して、過剰に反応するのは

珍しいことではなかった。

数ヶ月前、

彼女が腹部から尻上にかけての創傷を負った際も

大変な騒ぎだった。

ちょうど今向けられている、

焦燥感や怒り、苛立ちに満ちたような表情を

私はその時も見た。

杏「胡蝶！！！

　
　他の手負いの者は運ばれているのに、

　何故Aは診てもらえないのだろうか！！！」

彼だけが足止めをくらい、

他の負傷者ばかりが屋敷内へ通されるので

腹の虫が治らないのだろう。

彼の目から少し鬼に近い気配を感じてしまう。

なるほど、Aが避けたいと思うはずだ。

この傷は大したことはない、

と言い張るAと

何かあったらどうするんだ、と

言い返す杏寿郎の

先程繰り広げられたであろう二人の姿すら目に見えた。

しのぶ「煉獄さん、例え柱直々の頼みであるとはいえ、

　 Aさんだけを優先することはできません」

杏「何故だ！！！」

先程から一歩一歩とこちらに近づいてくる彼の威圧は

耐え難いものである。

それでも私はこの屋敷の顔として、

平然を装う必要があった。

しのぶ「私たちの仕事は平等でなければなりません。

　まずは何よりも重症患者を優先的に診ます。

　 Aさんは比較的軽症ですから、

　順番をお待ちください」
　

私の言葉に頭では納得しているものの、

心が追いつかない、といった感じで

彼はその場で黙り込んでしまった。

アオイ「しのぶさん、こちらの病棟だけではベッドの数が足りません。

　指示をお願いします」

陰気な空気をかき消すような、屋敷からの声に

私は慌てることなく返答した。

しのぶ「そうですか。

　至急本部に連絡をして、物資の調達をしてもらいましょう」

アオイ「わかりました。

　鎹鴉を送ります」

いつものような真剣な面持ちで

アオイが屋敷内を駆けていくのを見守る。

それから少しして前を向き直した時には、

もう杏寿郎の姿はなかった。