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―杏寿郎side―
『何か私が思い違いをしていたみたいだ。
二人は女中とその主人の息子としての距離感を
大切にできているんだね』
数週間前に聞いた産屋敷の声が頭の中でこだまする昼過ぎ。
Aとのプチ騒動があってから、数十日が経った真夏日に
俺は縁側に座っていた。
中庭には竹刀を振りかざす弟の姿がある。
熱中症にならないか些か心配になりながらも
真剣そのものの鍛錬を止める気にもなれなかった。
A「お気をつけて」
廊下の向こう側から凛とした声がここまで響いてくる。
振り返ると、玄関が開く音がして
遠くに敷居を跨ぐ父の姿が見えた。
杏「父上!!水分補給をお忘れなく!!!」
叫んでみたはいいものの、
炎天下に叫ぶ蝉の声にかき消されてしまったようだ。
父は振り返ることなく、
部屋着のまま屋敷を後にしてしまった。
父の姿が見えなくなるまで深く頭を下げた彼女は、
玄関を離れると忙しそうに廊下を走り回っている。
杏「千寿郎、その構えでは胴が空いてしまう。
もう少し腕を引いてみるといい」
千「はい、兄上」
日差しを浴びながら、千寿郎の元へ歩み寄る。
後ろから一緒に彼の竹刀を持って、
体の形を覚えさせる。
杏「肩の力をもう少し抜きなさい。
腕の位置はここだ。
何度も練習するうちに形になっていくはずだ」
A「杏寿郎さん」
屋敷から聞こえる声に
俺たち兄弟は二人して振り返った。
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作者名:わたあめ | 作成日時:2021年5月4日 20時