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―Aside―
A「おはようございます。朝食をお持ちしました」
襖を挟んで槇寿郎にそう告げる。
屈んだまま器用にお盆を左手に乗せたまま、
躊躇いもなくその襖を開けることも、もう慣れた。
槇寿郎の場合は特に寝起きが悪いので、
こうして無理でも起こして、食を喉に通させないといけない。
もし彼の健康に何かあれば、
それは全て私の責任である。
襖を開ければ、そこには毎日見る光景が
今日も当たり前のようにそこにあった。
空気がこもった部屋には、どこからも朝日が差し込まない。
彼の目に負担にならないように、
私は草木が描かれた襖をゆっくりと開けていく。
徐々に差し込む日の光に反動するように、
はたけた布団はゴソゴソと音を立てる。
A「季節の変わり目ですが、空が高いです。
もう随分と西日も強くなるはずですから、
お昼頃にはまた襖を閉めに伺いますね」
箪笥から薄めの着物を取り出して
彼の隣にそっと置く。
布団の中からは、血管と体毛の目立つ腕が
こちらに伸びてくるので
私はいつも通り水を渡した。
A「お体に優れないところはありませんか?
何かあればすぐお呼びください」
彼が私の言葉に返事をすることはあまりない。
だからと言って、返事を待ち続けると
早く出て行けと怒られてしまうので、
次に杏寿郎の元へ朝食を届けようと、私は立ち上がった。
槇寿郎にこの背を向ける、その瞬間だった。
槇「…おい」
低く掠れた声に、
私は迷いなく振り向いた。
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作者名:わたあめ | 作成日時:2021年5月4日 20時