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―Aside―
―ガシャン
何かが勢いよく割れ裂ける音を合図に、
私の身体は雄の力から解放されるのだった。
夜の匂いに酔いつぶれたような杏寿郎の表情は一変。
彼の左手の親指が、刀の鍔に触れるのを見た。
それから彼と同様、
私も月光の除く方へと目をやった。
垂れ下がる彼の黄金の髪が、私の視界を遮るので
重い体を起こす。
A「……」
外の光が溢れる襖の向こうに見えたのは
こわばった表情で立ちすくむ
千寿郎であった。
その足元には
死んだように横たわったグラスの破片と
円を描いた水溜り。
私たちから目を離せずに立ちすくむ彼の、
その表情を見ていると
もう何もかも駄目になるような気がした。
杏「……」
何を考えているのか、
私を布団に一人残して杏寿郎は立ち上がる。
暗がりでよく表情の見えない彼の腕を掴み
勢い余って立ち上がった私は、
感情に任せて彼の頬を平手で貫いた。
千「っ!?」
他人の感情は愚か、
自分の感情さえも行方不明である。
この手は、たった今、
世界で一番愛しい人を痛めつけたのである。
パァアンと皮膚を貫く音に遅れて
私の悲しみはやってきた。
どうにもこうにも止まらなくなった涙の先に
ぼやけた杏寿郎が
千寿郎の近くで屈むのを見た。
その夜は誰も口を開けず、
ただただ杏寿郎だけが割れたガラスの破片を集めていた。
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作者名:わたあめ | 作成日時:2021年5月4日 20時