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―Aside―
目の前にいる産屋敷のことなど忘れ、
私はそんな5年前の回想に明け暮れていた。
私が鬼殺隊に入らない理由。
それは、私の戦う目的が他でもなく
“杏寿郎を守る為”であるからだ。
私がここまで剣術を磨いたのも、
世界に刃を向けるのも、
全て杏寿郎を守る為である。
鬼殺隊に入れば、
彼と別任務になることだってあるだろうし、
何より鬼殺隊員よりも
一般市民を優先しなければならなくなる。
…...それでは、笑えるほど、意味がないのだ。
ふと顔を上げると、
開いた障子戸から
あまねが飛び出してくる。
珍しく取り乱し、
血相を変えた彼女は
そのまま私を優しく抱きしめるのだった。
涙でぼやけた視界の中で
いつもと変わらず産屋敷が優しく微笑んでいる。
……そうか、私は泣いているのか。
思いの外、
5年前の過去を掘り返しすぎたようだ。
想いの丈が5年前に残ったまま
まだこちらに戻ってこないような、
そんな感覚。
……そうか、本当は辛いんだ。
情けなさと、溢れかえる思いに
唇を噛んだ。
……本当なら、鬼殺隊に入って
産屋敷に恩を返したい。
お金ももらって楽になりたい。
嘘でもいいから
杏寿郎にあのキスの続きをしてほしい。
心の奥に沈めたはずの恋心が
疼いて疼いて苦しい。
毎日毎日、彼の全てに触れたくて
本当はしょうがないのに。
なのに、
それなのに、
現実の私は
彼の温かい手を振り解いて、
真っ直ぐなあの瞳から
目を背けなければならない。
……そんなどうしようもない現実が
どうしようもなく、
産「苦しいね」
声にならない叫びを代弁されると
こうも楽になるのか。
私は脇目も振らず
その場で声を上げて泣いた。
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作者名:わたあめ | 作成日時:2021年5月4日 20時