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5年前
―Aside―
A「誰か……助けてっ、
誰かあ!!!!!」
朝焼けの中に揺れる霧をかき消すように、
私は遠くに向かって叫ぶ。
……彼を助けなければ。
悲しいとか、苦しいとか、痛いとか。
そんなこと
この時の私には一ミリも感じなかった。
…感じられなくなっていた。
ただそこにあったのは
どうしようもなく消えない愛情と、
生まれたばかりの責任感だった。
A「助けてください!!
誰かいませんか!!!!!」
今はまだ他力に縋ることしかできない。
……それでもいつかは、必ず。
彼の “守らなければならない人”の中に
彼自身は入っていないのだから。
私が強くなって彼を守らなければ。
私だけでも彼を守ってあげなければ。
例え鬼の存在するこの世界が
私に牙を剥いても、
彼が望んでいなくとも、
私だけは彼を守るために刃を振るう。
彼の為にこの命を削れるのなら、
一生を捧げられるのなら、
それは、本望だった。
あの日、
初めて彼と出会った日。
初めて恋を知った日。
初めて “杏寿郎” という光を知った日。
あの日から私には決めていたことがある。
それは、
生涯彼の隣を歩き続けるということ。
…恋仲になれなくたって構わないし、
お嫁に行けなくたって構わない。
貴方が別の女性と縁を結ぶのなら
私は女中としてそれを見届けると決めていたし、
愛されなくてもきっと私は大丈夫。
そう思えるのは、
これまでの数えきれないほどの彼との思い出が
震える私の足を支えるからだ。
彼の命を救えるのなら
この先なんだってできると思えた。
腐り切ったこの世界で
彼が生きていてくれるなら
私はいくらでもこの手を汚す覚悟はできていた。
残酷な世界を知ってしまった私は
もう子供では居られない。
もう戻れない。
これ以上
彼の足枷になるわけにはいかない。
彼と出会えて、
初めて生きたいと思えたのだ。
私はただ、彼のいる世界を生きたい。
彼のいない世界には意味がないのだ。
彼だけが、
私の生きる理由なのだから。
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作者名:わたあめ | 作成日時:2021年5月4日 20時