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5年前
―Aside―
切り離された、
鬼の頸と身体。
それらは無残にも崩れ落ち、
灰へと変わる。
そして未明の風に運ばれて消えてった。
それを見届けるようにして、
私は杏寿郎の腕から下ろされる。
振り向いて、彼の安否を確認しようとした時には
もう遅かった。
A「っ！！！」
朝日に照らされて瞳を閉じた彼の体は
そのまま重力に逆らうことなく
地面へと崩れいく。
声も出ない私は
咄嗟に落ちていく彼の体を抱きとめた。
隊服も相まってか、
想定外に彼の身体は重く、
私は支えかねる。
A「ぅあっ…」
力のない私は
そのまま彼の頭を両腕で守るようにして
共倒れをする。
A「杏寿郎っ……。
………杏寿郎！！」
仰向けになった彼の体を揺すぶり、
その名を叫ぶ。
呼吸の音が聞こえないことに
焦りを覚え、
彼の体を横に向けた。
その瞬間、彼は激しく吐血する。
辺り一面、血の海になる。
苦しそうに咳き込み
吐血を続ける彼を前に、
私は何も出来なかった。
震える手を止める方法も、
涙を止める方法も、
毒のせいで腐敗していく彼の肌を
治す方法も、
私は何も知らなかったのだ。
痙攣を繰り返し、
冷たくなっていく彼の手を握ることしか
出来なかったのだ。
血で汚れた彼の手を頬に擦り寄せる。
A「杏寿郎……置いていかないで」
口をついて出た言葉に
私はハッとした。
“いかないで”
“待って”
“動いちゃダメ”
“一緒に逃げよう？”
私だって何度も彼を守ろうとした。
守りたかった。
何度だってその名を叫んだ。
……それでも彼には届かなかった。
…私は、何も出来なかった。
私は私が思うよりずっと無力だったし、
私は私が思うよりきっとずっと
杏寿郎に守られてた。
流れ落ちる彼の涙と、鼻水を拭った頃には
彼の顔はすっかり青白くなってしまっていた。
私は彼の手をゆっくりと離して
立ち上がった。
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作者名：わたあめ | 作成日時：2021年5月4日 20時
