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5年前








ーAsideー




A「……うん」



封筒からは、どことなく彼の匂いがする。


私はさらに強くその封筒を握りしめ、

大きく息を吸い込んだ。




『長期任務前に渡したかった』




先程の彼の言葉が頭の中でこだました。


長期任務前に渡せば、

俺はAからの返事を待つことができる。





以前にも彼はそんなことを言いながら

長期任務前に渡してくることがあったなと思い出す。





A「…」




私は何も言わず、

封筒を握る力よりももっと強く、もっとキツく、

目の前の彼を抱きしめた。





隊服は、まるで私の抱擁を拒むような硬さで。



羽織の奥でそっと顔を見せる刀は

私なんかよりもずっと彼と近い場所に居て、

それが悔しかった。




この頃の私は、自分の心にいつだって素直だった。




泣きたい時には泣いたし、

笑いたい時には笑った。


伝えたいことは全て、不器用ながらに伝えた。


生きることに対しての要領が、悪かったのだ。





A「…いかないで」




背中に大きく書かれた「滅」の文字。




その文字を掲げた彼は、

彼自身の身を滅ぼしてしまいそうで

私はただただ恐ろしかった。






彼が父の背を追いかけて、

鬼殺隊を支える柱になりたいと切望するのは

よくわかる





それでも私はいつだって彼を止めたかった。



彼がこの世界のために戦わなければならない理由が

私にはわからないのだ。



 


杏「……A。

  すぐ戻る。約束する」





私には彼を止めるだけの力はない。



力のない私が並べる理想はただの夢であり、

私はただの夢想家にすぎなかった。





封筒が折れ曲がるほど力んだ、私の右手を

彼の温かい手が優しく包む。




私はいつものように笑う彼を見上げ、

その笑顔に恍惚としてしまう。




二人を包んだまま、羽織の中の温度は

やわらかく上昇して。





小さく揺れた彼の髪に、

私の顎を掴む温かい指、

そして迫ってくる彼の端正な顔。




拒むことのできない私はそのまま

彼の燃え上がる瞳を最後に、目を瞑った。

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設定タグ:鬼滅の刃 , 煉獄杏寿郎 , 宇髄天元   
作品ジャンル:恋愛
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まるまるもりもり(プロフ) - さねみん推し(だが渋い槇寿郎も好き)さん» たしかにそうですね!そうすぎますね!!!!!書き直させていただきます!的確なご指摘本当にありがとうございます(TT) (2021年3月14日 11時) (レス) id: 1253c02f70 (このIDを非表示/違反報告)
さねみん推し(だが渋い槇寿郎も好き) - すいません・・・「エピローグ」の所、物語の最初なので「プロローグ」の方がいいんじゃ・・・(^_^;) (2021年3月14日 6時) (レス) id: ff085d1bee (このIDを非表示/違反報告)
まるまるもりもり(プロフ) - 凪子さん» 凪子さん、素敵なコメントありがとうございます^ ^ そうですよね!煉獄さんは身分差は気にしない素敵な人ですよね(*^^*) 凪子さんにもっと楽しんでいただけるように、頑張ります!! (2021年3月13日 23時) (レス) id: 1253c02f70 (このIDを非表示/違反報告)
まるまるもりもり(プロフ) - 衣世さん» 衣世さん^^コメントわざわざありがとうございます!とても嬉しいです(^-^)ハッピーエンドになるように頑張りますね!! (2021年3月13日 23時) (レス) id: 1253c02f70 (このIDを非表示/違反報告)
凪子(プロフ) - 身分の差…煉獄さんは気にしないと思いたいです!展開を楽しみにしています(^^) (2021年3月13日 8時) (レス) id: 33c3d87eb8 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:わたあめ | 作成日時:2021年3月12日 20時

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