36 ー千寿郎sideー ページ39
5年前
ー千寿郎sideー
空気を切り裂くような父の怒鳴り声。
その後の花火のようなAの泣き声。
驚いて駆けつけてみると、
この有様だった。
千「あにう…」
台所で大泣きするAをどうしようかと
不安に駆られていると、
そこには迷いなく彼女を抱きしめる
優しい兄の姿があった。
杏「A。
返事をしなさい」
何度もAの名前を呼んだのちに、
彼は小さくそう言った。
その後しばらくして、
彼女の「はい」
という弱々しい声だけが、台所に響く。
止まらぬ涙の所為、
呼吸も儘ならないといった感じである。
彼女はここに来た時からよく泣いた。
それでもここまで取り乱すことは初めてだった。
杏「A。
どこか痛むか」
きっと、だからこそ、
それは聞いたことのないほどの
兄の優しい声音だった。
彼の腕の中に埋もれながら、
Aは首を左右に振るので
僕は胸を撫で下ろした。
しかし、
よほど傷が深かったのか
兄の額からはガーゼをすり抜けた血が
ゆっくりとその頬に流れていく。
僕は
再び薬箱を強く握りしめるのだった。
杏「A。
君が思っているほど、
こんな傷はなんてことはない。
存外、痛くも痒くもない。
Aが怪我をせずに済んで何よりだ」
彼のその言葉に、
目頭が熱くなるのがわかった。
まるでもう二度と離れぬように
硬く、強く抱き合う二人の姿を前にして
僕は微かに残る母との記憶を探していた。
杏「Aの泣き顔を見る方が
俺は何倍も辛く思う。
何倍も痛く思う。
どうすれば良いのかわからない」
Aの髪に
その顔を埋めているからか、
兄の声はどことなく震えているように反響した。
僕が生唾を飲むのと同時に、
その疑問は確信へと変わった。
杏「Aには、
…Aだけには、
笑っていてもらいたい」
両手を胸元でぎゅっと握り締めながら、
僕は思った。
ああ、兄は、
この人の前では、
泣くことができるんだ、と。
胸と目頭が、
限界まで熱くなった僕の耳には、
『はい。杏寿郎さん』
というAの優しい声が届いたのだった。
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まるまるもりもり(プロフ) - さねみん推し(だが渋い槇寿郎も好き)さん» たしかにそうですね!そうすぎますね!!!!!書き直させていただきます!的確なご指摘本当にありがとうございます(TT) (2021年3月14日 11時) (レス) id: 1253c02f70 (このIDを非表示/違反報告)
さねみん推し(だが渋い槇寿郎も好き) - すいません・・・「エピローグ」の所、物語の最初なので「プロローグ」の方がいいんじゃ・・・(^_^;) (2021年3月14日 6時) (レス) id: ff085d1bee (このIDを非表示/違反報告)
まるまるもりもり(プロフ) - 凪子さん» 凪子さん、素敵なコメントありがとうございます^ ^ そうですよね!煉獄さんは身分差は気にしない素敵な人ですよね(*^^*) 凪子さんにもっと楽しんでいただけるように、頑張ります!! (2021年3月13日 23時) (レス) id: 1253c02f70 (このIDを非表示/違反報告)
まるまるもりもり(プロフ) - 衣世さん» 衣世さん^^コメントわざわざありがとうございます!とても嬉しいです(^-^)ハッピーエンドになるように頑張りますね!! (2021年3月13日 23時) (レス) id: 1253c02f70 (このIDを非表示/違反報告)
凪子(プロフ) - 身分の差…煉獄さんは気にしないと思いたいです!展開を楽しみにしています(^^) (2021年3月13日 8時) (レス) id: 33c3d87eb8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:わたあめ | 作成日時:2021年3月12日 20時