きっかけ ページ1
ついさっき、研修生としての全過程を終えた。
私はこれから、審神者になる。
どうやら私は他の研修生より霊力の質が良いらしい。お世話になった見習い先の審神者さんが教えてくれた。
だからなのか政府の人に提示されたのは、研修生としてしか審神者というものに触れていない私でさえ、 "異例" だと分かるものだった。
「貴方には、とある本丸に向かってもらいます」
「とある本丸、?」
「えぇ。ある事情で鶴丸国永がたった一人で顕現している、本丸へ」
鶴丸国永。
平安時代に打たれて、今は皇室御物となっている、五条国永が作刀の太刀。
見習い先の本丸で、その姿を私も見た事がある。
全身真っ白で線は細く、その中に浮かぶ瞳の色は蜂蜜色、そんな見た目で相手に儚げな印象を与えたかと思えば、実の所中身はとても豪胆で悪戯好きの、良くも悪くも期待を裏切ってくれた。
それが鶴丸国永という刀剣男士。
そんな彼が、たった一人で顕現している、本丸。あの、退屈を何よりも嫌う、彼が。
「何故、私なんですか」
私なんかよりも、他にもっと適任の人がいるだろう。
私は、たとえ霊力の質は良くてもその量は並かそれ以下。研修中の試験の結果だって良かったと言えるものばかりでは無い。
そんな私が、何故。
「貴方の霊力の質が、研修生の中で一番清いからです。
貴方も知っているとは思いますが、霊力の質はその人本来の性質に左右されます。
だからこそ、貴方に鶴丸国永を頼みたい」
力強い声で、私の目をしっかりと捉えて、政府の人はそう言った。
そこまで言われてしまったら、私が拒む理由は無い。
それに、元より政府の決めた事だ。一介の審神者、ましてや研修を終えたばかりの私の意見なんて、通らないだろう。
鶴丸国永は、遅かれ早かれ私もいつかは迎えたいと思っていた刀だ。
それが今と言うだけ。
「…分かりました。私、そのとある本丸に行きます」
「有難うございます」
腰を折って私にお礼を告げた政府の人は、暫くして顔を上げた。
その人が何を考えているかなんて、私には分かる筈もない。
それから、鶴丸国永だけではあるが顕現している為、私がその本丸の審神者となるには本丸譲渡の契約書とやらにサインをしなければならなかった。
審神者を持たない、政府持ちの本丸ではあるが、それを譲り受ける形になるからだ。
契約書にサインを書いて、私は、鶴丸国永だけがいる本丸の、形式上ではあるが審神者になった。
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詩月(プロフ) - 冷泉 雪桜さん» コメント有難うございます。この文体で書くのは初めてなのでそう言って頂けて良かったです(*¨*) (2020年1月12日 9時) (レス) id: 47903b2cc4 (このIDを非表示/違反報告)
冷泉 雪桜(プロフ) - 初コメ失礼します。素敵な文章でとても感情移入しやすいですね♪今後が楽しみです。頑張って下さい (2020年1月9日 23時) (レス) id: 18535e1a43 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:詩月 | 作成日時:2020年1月6日 19時