2話 ページ2
「……」
「マシュッ！」
瓦礫と肉塊の間を避けて、おぼつかない足で少女の近くに歩み寄る。口元に耳を寄せると、まだか細く小さな呼吸が聞こえた。
まだ息があることに安心すると、彼女の全貌を見た。
「…ッ」
腹部を大きく引き裂かれた赤髪の少女。
鎧があるはずの場所は切り裂かれていた。
そこから覗く痛々しい傷と目が合い、思わず目を逸らしたくなる。可愛かった桃色の髪は頭部からの出血によって染まっていて赤い髪と変貌している。
彼女がデミ・サーヴァントでなければ即死だったはずだ。
「マシュ、マシュ」
「…マスター、」
薄く開かれた瞳で俺が生きていることを確認すると、目の前の少女の表情は微かに柔らかくなった。
咄嗟に手を握ろうかと思ったけど、自分にはそんな資格があるのかという考えが阻んだ。
「ドクター、マシュを見つけました！だけどひどい怪我で……」
「了解藤丸くん！今すぐレイシフトを開始する！」
令呪はない。少ない時間で使い方を教えてもらった礼装も、サーヴァントやエネミーとの戦いにより、段々と機能しずらくなっていた。
回数を重ねる毎に右手の痛みは大きくなり、今では感覚が無くなっていた。
俺が上手く出来なかったから、俺が本物の藤丸立香だったら
「ごめん、ごめんねマシュ」
マシュは悲しそうに眉をひそめていた。
彼女は自分に笑みを見せてくれることは無かった。この短い
数多の英雄たちと共に並べるほどの誇りもない、前に進み続ける力もない。
「マスター…？」
辺りが輝き始める。レイシフトが開始されたようで、ようやくマシュが治療を受けられそうでホッとした。
と同時に、自分はカルデアに戻ったら職員さんやドクターにどういう表情を向ければいいか、どういう報いをしたらいいか分からなくて複雑な気持ちだった。
手元に、仄かな温もりを感じた。彼女が手を握ってこちらを見つめていた。少し力を込めて握り返すと、彼女も精一杯力を込めて握り返してきた。
握り返された手の力は、サーヴァントの力とはとても思えないほどに弱くて、子どもの手を握っているようで、笑みが溢れ出る。
そんな俺の様子を見て、マシュも花が咲いたように微笑みを見せていた。
あぁ、君はこんなに強いのに、自分はなんて情けない。
薄く、花の香りがした。
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作者名：木綿豆腐 | 作成日時：2022年12月20日 7時
