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墓場のほうが慈悲深い/2 ページ44




「 きみのこと、殺してしまいたいくらいには好きだよ 」

「 なにそれ、歪んでるよ 」

ホテル備え付けのドライヤーは強い風と弱い風が極端だったので、時間はかかるけれど、彼女の柔らかい髪には弱い方が良いだろう。

「 あのさぁ、それで。きみの外套からこんなものが出てきたんだけど 」

半乾きの髪が揺れる。一度ドライヤーを止めて黒く細長いものを取り出した。

「 そ、れ 」

「 きみの口紅だよね? 」

「 ……そう。ただの口紅。返して 」

「 ただの?誰かからの贈り物なんでしょう? 」

全部、捨ててきたんじゃなかったの。チョーカーは捨てられても、これは捨てられなかったんだ。取り返そうと伸ばされた彼女の手を掴む。

「 毒なの、それ。仕事で使ってたのが入ってた 」

「 へえ、きみの新しい仲間に使う積りだった? 」

「 違う! 」

「 じゃあ捨てられるよね!ね! 」

へなりと手首の力が抜けて、彼女は黙り込んでしまった。俯いているせいで、濡れて別れた前髪から覗く額がまあるい。

「 きみが信用されるにはそれしかないよ!マフィアからの刺客としか考えられない、普通。だけど、ドス君はきみが個人的な興味に基づいてここに現れたってことを知ってる。 」

その瞳。宝石のような陳腐な例えよりも、きみに似合うのは元素。この世を構成するもの。この世の全てが、きみの瞳。絶対に消えることのない輝き。

「 お願い。赦して 」

あぁ、ずるい、かわいい。僕に毛ほどの興味もない。僕も、ドス君も、可哀想。

蓋を開けて、柘榴のような色のそれを自分の唇にぐるりと一周。きみに似合う色。誰かがきみの為だけに選んだ色。

「 ね、きみからキスしてよ 」

証明して見せて。君が何にも、誰にも縛られない人間であること。翼を持つ鳥であること。あぁ、可哀想で笑いが止まらない。

「 ゴーゴリくん、しんじゃ… 」

「 だからさァ、Aちゃんが中和してよ。信じさせてよ。僕の心臓を止めないで 」

あぁ、そんな顔できたんだね、きみ。
これを見られた人ってこの世にどれくらいいるんだろう。全員ゴミ箱に捨てて、僕だけにしたい。

「 ゴーゴリくん 」

「 うん 」

されるがまま、何をされても取り乱さなかった彼女が、今僕にキスしようとしてる。
最初は触れるだけ。体の全てがやわらかい。次は数秒。もうむり、と瞳を揺らす彼女。後頭部を掴んで引き寄せる。

深く、深く、深くまで。ふたりの朦朧とする意識、魂の天秤が死に傾くのが心地良い。

心が貰えないのなら、先に身体を貰ってしまえば良い。


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ねむい(プロフ) - kuroさん» こんにちは、本当にありがとうございます!とても励みになります!これからもどうぞよろしくお願い致します! (2020年1月24日 23時) (レス) id: f7d54c694c (このIDを非表示/違反報告)
kuro(プロフ) - この先の展開がとても気になります!更新頑張ってください! (2020年1月24日 8時) (レス) id: f9572c4e12 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ねむい | 作者ホームページ:   
作成日時:2020年1月19日 23時

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