毒を以て毒を制す/3 ページ19
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「 A 」
「 うん? 」
「____そんな
何処までも、底知れないような暗さは、光が当たらないどころか全て吸収してしまうらしい。ワイングラスで埋まっていない方の手で頬に触れると、小さな顎は少しだけ持ち上がる。ん、と微かに声を上げた彼女の双眸が、そうである様に。
「 何で何時も、そんな俺の知らない何処か遠くに、テメェは行きやがるんだよ 」
「 …中也? 」
嗚呼云うなれば、其れは醜い嫉妬の様な何かだったのかも知れないのに。彼女は察しがついたのか、嫌、だなんて声をあげた。
「 __失礼します。彼処のお客様から、綺麗なお嬢さんにと 」
目の前に、カクテルが置かれる。先程の男衆だろう、下心が見え隠れするその爽やかな色に、彼女は少し驚いた様な顔をした。
「 おい、話は終わってねェ。テメェ、その指輪____男から貰っただろ 」
ワイングラスを机にゆっくりと起き、
「 テメェ、解らねえのか? 」
「 何が?ほんとうに、唯の友人から貰ったものなの。それが男でも女でも、中也には 」
「 ッテメェなァ!関係あろうと無かろうと、テメェの事で俺が気にしねェ訳ッ…… 」
「 え、どういうこと?解らないのだけど…… 」
あ、と声を立てた時にはもう遅かった。
此方を見詰めた彼女の黒黒した瞳から、すーっと、一筋零れ落ちる。手袋にそれが染みて、心底吃驚してしまった。Aが、泣いてる。
「 でも、ひとつだけ、解った 」
「 …… 」
「 太宰はあの時、 」
____【 ねえ、A。君は私を、
彼女はそれっきり、もう一粒も零さない。先程のあれは幻だったのかも知れない。頬に触れた手を顎に移動させて、静かにその小指から指輪を抜き取る。
( ……それでも、テメェが泣くのは、何時も太宰のことだけ何だよな )
「 酷い、酷い男だよ、太宰は。ほんとうに、酷い 」
「 A 」
「 中也 」
まるで流れ作業。その指輪を未だ一度も口を付けていないカクテルに放りこみ、其の儘両手で彼女の顔を包み込むようにして、持ち上げる。
「 いや 」
「 五月蝿え 」
引き寄せるようにして。
そんなに乱暴に触れたのは、初めてだった。
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ねむい(プロフ) - kuroさん» こんにちは、本当にありがとうございます!とても励みになります!これからもどうぞよろしくお願い致します! (2020年1月24日 23時) (レス) id: f7d54c694c (このIDを非表示/違反報告)
kuro(プロフ) - この先の展開がとても気になります!更新頑張ってください! (2020年1月24日 8時) (レス) id: f9572c4e12 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ねむい | 作者ホームページ:
作成日時:2020年1月19日 23時