◇ ページ10
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「……な、に……？」
掠れてはいるものの声が出る。息がほぐれて、指先がじんわりと温かくなる。全身に血が巡っているのを感じる。
「Aに伝えたいことがあるから聞いてほしいです！
宙も寒くて、凍ってしまいそうだったときがありました。
でも、あるときししょ〜とせんぱいが手を握ってくれました！ 嬉しかったな〜、あったかくて、安心したな〜♪ それから、すごくすごく嬉しかったです！
だから、宙もあなたの手を握ります！」
ひとりは、寂しいから。
ただそれだけの至極単純な理由に心の奥に刺さっていた麻酔針が抜ける。
太陽が死んでしまった世界で生きることは難しいと思っていた。暗い、日の当たらない場所で息をすることなどできないと。けれど、
「帰りましょう、宙と！」
あなたの笑い声を聞ければそれでよかったんだ。ほんとうのさいわいなんて探しに行かなくても、そこにいるだけで＿＿＿＿ああ、だから。ぎゅっと強く握りしめられた手から体温を取り戻していく。
そうして、もう一度。
◇
目を覚ました私を迎えたのは、きらきら輝くお星さまみたいな子だった。
「HaHa〜♪ 気分はどうですか？」
鼓膜を震わせる気遣いもやさしさに満ちていて、久しぶりに目を開けた私には眩しい。
「お医者さんはもう大丈夫だって言ってました！ 宙は言われたことをちゃんと伝えます！」
「もう、だいじょうぶ……って、ひょあ！」
「よかったな〜、これで安心！」
ふわふわな黄色が飛び込んできて、舌を噛みそうになる。視界いっぱいにぴょこぴょこ揺れるたんぽぽ色に、春先の鮮やかな空を閉じ込めた瞳。とても懐かしくてあたたかい香りがして、お星さまというよりはおひさまなのかもしれない。
「だいじょうぶ」と頷けば笑顔がぱっと咲いた。この場所だけ、春色みたいに。そっと重ねられた手からとくん、とくん、と彼が生きている証が伝わってきて、夢か現か判断できない、さっきの一幕が頭をよぎった。麻酔針を抜かれた私はずきずきと所々に痛みを感じた。
陽が沈んで、例え太陽が死んでしまったって、それは明日への生まれ変わり。引き出しを侵食していたものは、黒ずんだ錆のようにこれからも増えるのだろうけれど、
「……あのね、宙」
怒鳴って、ごめんね。
……それから、我儘を言ってもいい？ こんなに暑い夏なのに、あなたと温かいスープが飲みたい。それからデザートに林檎を食べて、あなたがずっと教えてくれていた宇宙の色を、今夜二人で観たいんだ。
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作者名：ねむい | 作者ホームページ：
作成日時：2019年8月26日 19時
