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夢の中の自分は、年相応に恋をしていた。
恋なんて、言ってしまえば年齢的に思春期真っ盛りな今でも無縁なものだと思っている。恋をするなら、そこらの女性より他の人類が誰も真似出来ないような奇術が相手の方がきっと性に合っている。
けれど、何故だか夢の中では自分は確かにある少女に想いを寄せていた。毎晩のように彼女は夢に出てきて、毎朝目が覚めてしまえばそれがどんな夢だったかまるで覚えていないのに、自分が彼女に恋をしていたという自覚だけが微かに上擦った鼓動と共に残っている。夢の中だけでしか会うことが叶わない少女に恋をするだなんて、高嶺の花に恋するよりも愚かだなんて自分で自分を嘲笑しながらも一度意識してしまった想いを無かったことにするのは人間にとって至難の技である。何とも言い難いもどかしさに悩まされながら講堂の舞台に立っては演じ、喝采を浴び天才だと持て囃され、そうしていつか愚かな恋をする自分と共に夢の中の彼女の存在もすっかり無くなってしまえばよかったのだ。
……それなのに、現実は小説より奇なり、夢の中で恋した
魂まるごと役に呑まれる感覚に身を任せながら何気なく客席を見回したその時、確かに自分の夢の中でしか存在し得なかった筈の彼女が真っ直ぐに自分を見つめていたのだ。
役者としての役をこなしつつもあれが本当に彼女と同一人物なのかと目を凝らしているうちに幕は降りて、観客はすっかり暗くなった外を気にして帰路につく。自分も本来ならこのまま帰ろうとさっさと裏口から出てしまうけれど、今日ばかりは気付けば客席に足が向いていた。
彼女は、先程と同じ座席に座ってぼんやりと幕の降りきった舞台の方を眺めていた。彼女との間にそれなりの距離があっても外見の特徴から確信を抱く。彼女は、間違いなく「夢の中の少女」だ。
いつも通りに余裕で不敵な笑顔の仮面を嵌めて、丁寧に棘抜きが施された真紅の薔薇を片手で弄びながら彼女の目の前に着地すれば、驚いたことに彼女は「お久しぶりです」なんて言葉を投げかけた。まさか、彼女と実際に顔を合わせたことなんてないというのに。
「初めまして、美しいお嬢さん」
あれは確かに夢だったのだと思っていた。けれど、彼女がそうでないと言うのなら、或いは──。
……否、これも、きっと夢なのだろう。
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作者名:ねむい | 作者ホームページ:
作成日時:2019年8月26日 19時