音 ー視点なしー ページ34
脳で骨の砕ける音を聞いたのを最後に、男は全身の自由が効かなくなった。膝から崩れ落ち、硬い地面に全身を打ち付けた。指先さえもピクリとも動かないもどかしさと、今から自分に降りかかるであろう恐怖の狭間で、ただ震える。
五条は、ゆったりとした鼻歌を静かに歌いながら、男の内ポケットを探り携帯を取り出した。ゆっくりと立ち上がり、さも自分のモノかのような手つきで操作しているのを、男は目だけを向けて見上げる。
「あっ、う…」
声は、かろうじて出せるようだ。
「たっ…助け…!」
「黙れって。」
「ぶッ」
助けを呼ぼうと口を開くと、顔面に蹴りをくらい言葉を絶たれる。頭が蹴り飛ばされたような重い衝撃と共に、視界が一瞬真っ白に散った。
「あー、あったあった。」
そう言って、男の耳に携帯を押し付ける。コール音がただ繰り返されていた。誰かに電話を掛けているのだ。
「は…えっ…」
「異常がないことを言え。もし下手なマネすれば…」
五条は人差し指で、男のコメカミをトントンと叩いて、不敵に笑う。
「潰しちゃうよ。」
喉を締め付けられているような圧迫感に、息を飲んだ。
「わ…分かった、分かったっ…」と、震えた声で返事をする。
『はい。』と家入が出た。
「あ、家入さん、も…目標の家に到着して、手順通りにしました。」
『そうか、どうだった?』
「い、異常なしです。物音一つしません。」
『…そうか、良かった。』
家入は心底安堵し、深い溜息をついた。
男はちらりと五条を見る。彼の口元はピクリとも動かない。
『マ、ご苦労だったな。報酬は振り込むから。』
「待っ…!」
待ってください、と言いかけたが口を閉じる。
コメカミを指先で押されたので、恐怖で言葉が出なかった。
『何だ?』
「いえ、いえ。お願いします。」
ピッと電話が切れた音。五条は呆れたように「あー」と息の籠った低い声を漏らしながら、立ち上がった。
「僕さ、さっきなんて言った?」
「ガッ」
頭の上を、片足が踏み付ける。
「下手な真似したら、どうなるって言った?」
「ひっ、悪…悪かった…!悪かったよ!」
「デケェ声出すな、どこだと思ってんだよ。起きんだろ。」
「お、起きる…?」
「恋人が寝てんの。家ン中で。」
「へ?」
「可愛いんだよ、本当に。寝顔とかさあ。」
「何を…」
「でも、お前はもう寝ろよ。……まあ、寝顔は残らないだろうけど。」
「や、やめっ…!」
「おやすみぃ。」
果実の瑞々しい破裂音が響く。
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松野星月(プロフ) - コメ失礼します!わー、心に来る。続きがますます気になりました!楽しみに待ってます! (2023年5月4日 16時) (レス) @page37 id: 7e5eb61c5c (このIDを非表示/違反報告)
ナミ - コメント失礼します!すごく面白かったです!質問なのですが,この作品は完結でいいのですか?内容的に途中だと思うのですが…もし,続きを書く予定があるのなら続きみたいです!更新頑張ってください(^^) (2023年3月21日 14時) (レス) id: cbde72f558 (このIDを非表示/違反報告)
のんのんた(プロフ) - 一般タコピーさん» 返信遅れてごめんなさい!コメントありがとうございますっっ!!身に余るお言葉ですがめっっっちゃくちゃ嬉しいです(/Д`;💕︎ 不定期になってしまいますが、更新頑張ります!- ̗̀( ˶^ᵕ'˶)b (2022年12月19日 13時) (レス) id: a4f760f5fa (このIDを非表示/違反報告)
一般タコピー - 神作品だ!作者様の文才が素晴らしくて一気に読んでしまいました!更新頑張ってください! (2022年12月15日 18時) (レス) id: e79aa4edc0 (このIDを非表示/違反報告)
のんのんた(プロフ) - あさん» 嬉しいです!!ありがとうございます!私も好きです!!!(唐突) (2022年12月13日 17時) (レス) @page36 id: a4f760f5fa (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:のんのんた | 作成日時:2021年10月4日 4時