忘れもの ページ20
玄関の鍵をガチャガチャと回す音が聞こえて、早足で向かえば、帰宅した悟さんが立っていた。
「悟さん、おかえりなさい。」
ただいまぁ、といつも明るく返す姿とは打って変わり、俯いたまま玄関に佇んでいる。
「どうしました?」
流石に心配になり、悟さんへ近付けば腕を引っ張られて、やっぱり抱き締められた。帰宅すれば毎度やっていることだ。私の首元に顔を埋めると、深く息を吸ってゆっくりと吐き出す。首筋にこそばゆい感覚が走り、身をよじった。
「はー、好きぃ…。」と、くぐもった声が耳に響く。
「どうしたんですか、落ち込んでるように見えたんですけど…」
「んー?」
「ちょっ…」
背後に回された手が、ゆっくりと服の中へ侵入して来たので、咄嗟に腕を掴んで食い止めた。
「いきなり何を、ここ玄関ですよっ」
「玄関じゃなかったらいいの?」
「えっ、わっ!」
浮遊感を覚えた体。視線はぐんと高くなる。突発的な行動に理解が追いつかず、見渡せば、悟さんに抱きかかえられている事に気が付いた。
「なに、何してるんですか!」
彼は私の問いに答えないままリビングへ向かえば、ソファに座って膝の上に私を乗せた。
混乱と緊張で硬直する私を目の前に、彼はアイマスクを取った。
ついに頭が沸騰しそうだった。悟さんの青い瞳が真っ直ぐに私を映すので、気恥ずかしくて目を背けた。
「A。」
「はい…。」
「こっち見てよ。」
横へ泳がせた視線を、悟さんへ戻したが、やはり恥ずかしくてすぐ手元へとずらす。
「ちょ、ちょっと難しいですね。状況が状況なんで…」
「難しい?一緒に寝てる仲なのに?」
「寝てる時はまだ顔見えないから良いんですよ。」
「へぇ、顔が見えない…そっか。じゃあさ。」
彼は手に持っていたアイマスクを両手で広げながら、私の頭上まで持ってきた。
「えっ、えっ!なんですか!」
凄まじく嫌な予感がしたので、身を引く。
「何って、恥ずかしいならコレがいいと思うんだよね。」
「ちょっと…!」
「動かないで。痛いことはしないからさ。」
呆気に取られたまま、黒く染った視界。光が一切入らなくて、暗闇に取り残されたような感覚になる。
急いで取ろうとすれば、両の手を掴まれた。
「Aさ、何か忘れてない?」
ゆっくりと絡まる指。伝わる熱。皮膚を通して、悟さんが確かにそこにいるのが分かる。
もう心臓が口から出そうだった。
「わ…忘れてる…?」
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松野星月(プロフ) - コメ失礼します!わー、心に来る。続きがますます気になりました!楽しみに待ってます! (5月4日 16時) (レス) @page37 id: 7e5eb61c5c (このIDを非表示/違反報告)
ナミ - コメント失礼します!すごく面白かったです!質問なのですが,この作品は完結でいいのですか?内容的に途中だと思うのですが…もし,続きを書く予定があるのなら続きみたいです!更新頑張ってください(^^) (2023年3月21日 14時) (レス) id: cbde72f558 (このIDを非表示/違反報告)
のんのんた(プロフ) - 一般タコピーさん» 返信遅れてごめんなさい!コメントありがとうございますっっ!!身に余るお言葉ですがめっっっちゃくちゃ嬉しいです(/Д`;💕︎ 不定期になってしまいますが、更新頑張ります!- ̗̀( ˶^ᵕ'˶)b (2022年12月19日 13時) (レス) id: a4f760f5fa (このIDを非表示/違反報告)
一般タコピー - 神作品だ!作者様の文才が素晴らしくて一気に読んでしまいました!更新頑張ってください! (2022年12月15日 18時) (レス) id: e79aa4edc0 (このIDを非表示/違反報告)
のんのんた(プロフ) - あさん» 嬉しいです!!ありがとうございます!私も好きです!!!(唐突) (2022年12月13日 17時) (レス) @page36 id: a4f760f5fa (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:のんのんた | 作成日時:2021年10月4日 4時