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河村side
福良「じゃあ河村お願い」
河村「ん、お疲れ」
A「あ、スマホ…」
河村「ああ、取っておいで。先玄関行っとくから」
A「はぁい」
部屋に戻る背中を見送って、自分は玄関に足を向ける。
伊沢「あれ、河村さんもう帰るんすか?」
河村「うん、Aちゃんがちょっと酔ってて」
伊沢「…送るんですか?」
振り返った先でじっと見つめてくるその瞳が何を言いたいのかなんて、何年も一緒にやってきてたら当然分かる。
河村「…好きな子送るのに理由なんている?」
伊沢「…珍しいですね、河村さんがそんなこと言うの」
河村「さあね、僕もちょっと酔ってるのかも」
…だけど、負けないよ。
それを聞いた伊沢は何故か楽しそうに笑って、「俺も頑張ろ〜」と言いつつ踵を返した。
入れ違うようにして彼女が戻ってきて、またふにゃふにゃと頬を緩めて見上げてくる。
A「ふふ、おまたせしました」
河村「いいえ。行こうか」
タクシーはあまり待たないうちに来て、少し足元がフラつくAちゃんを控えめに支えつつ乗り込む。
A「あ、河村さんと帰るの初めてかも」
河村「…そういえばそうか、いつもは乾とかだもんね」
A「ふふ、うれしい」
頬を染めたままそう笑いかけてくるAちゃんは、眠たいのか目がとろんとしていて。
そんな彼女に、いつもなら笑い返すだけなのだけれど。
河村「ねぇ、」
A「ん、?」
呼びかけた先、夜の光に照らされた彼女は本当に綺麗で。
お互い酔っているし、彼女はきっとすぐに眠ってしまう。
だったらこのくらいは言っても許されるだろうか、なんて、少し酒が回った頭でぼんやりと考える。
河村「…簡単に送られたら駄目だよ、こんな風に」
A「…へ?」
河村「身近な人間だから安心だとは限らないでしょう?」
彼女の頬にするりと指を滑らせると、不思議そうにしながらも大人しく受け入れている。
だから駄目だってば、そんな安心しきった顔。
河村「…俺も一応男だしさ、警戒しなよ」
ぐっと顔を近付けて耳元で呟くと、ぴくりと身体が固まる。
これ以上は怖がらせてしまうと思い、離れて微笑む。
河村「…なんてね」
A「かわむらさ、?」
河村「着くまで眠っちゃいな。…今のは全部夢だよ」
彼女の目元を優しく覆って半ば強引に自分の肩に凭れさせる。
少しすると聞こえてきた寝息。
そのあどけない寝顔を1枚だけ写真に収めて、夜のネオンに視線を移した。
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ふかさ - お姉さまお知らせありがとうございます。更新を待っている内に色々あり全然読めていなかったのですが、このお話(秘蔵っ子ちゃんシリーズ)が大好きで約1年ぶりに読みにきたので今更になってしまいました。ゆきみ。さんの書くお話が大好きです。ご冥福をお祈りします。 (2023年4月12日 23時) (レス) @page13 id: d761253360 (このIDを非表示/違反報告)
猫さくらもち - そんな、、、この物語は私も心を大きく動かされた作品です。精神的にも悲しく、辛い中、お姉さまも伝えてくださりありがとうございます。どうか、ゆきみ。様のご冥福をお祈りします。 (2022年7月23日 8時) (レス) id: f692ce80b7 (このIDを非表示/違反報告)
アリアッテ(プロフ) - 素敵な方だったからこそこんなにも素敵な物語が書けたのだと思います。この作品に出会えて、ゆきみ。さんに出会えて幸せです。お姉様も心を大きく動かすような出来事で心身共にお疲れになっているであろう中、ご報告をありがとうございました。ご冥福をお祈りします。 (2022年7月20日 22時) (レス) @page14 id: 3aa37d57cc (このIDを非表示/違反報告)
さっちい(プロフ) - 素敵なお話をありがとうございました。と、妹さんにお伝えください。もっと読みたかったなぁ、と思うので過去作品をまた全部読み返そうかと思います。ご冥福をお祈りします。お姉様、無理をなさらず。 (2022年7月11日 6時) (レス) @page14 id: 9d4614c4da (このIDを非表示/違反報告)
あゆ(プロフ) - とても家族思いで優しい妹さんだったんですね。お姉様からの文章からとても伝わって来ました。ご冥福をお祈りします。長文失礼しました… (2022年7月11日 1時) (レス) @page14 id: 8c9909d177 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆきみ。 | 作成日時:2021年8月14日 17時