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運転席の補助監督さんが、バックミラー越しに、何か言いたげな眼差しで日下部さんを一瞥した。

やっぱり補助監督さんもそう思いますか?

無性に前のめりで同意を求めたくなったが、もちろん口には出さなかった。


***


呪霊の祓除を終えた私は、もうもうと砂塵が舞う中で、ゆらりと立ち上がった。

まるで灰神楽だ。髪が傷む。目に砂が入る。制服が埃で汚れる。私は内心うんざりしながらも、大きな怪我もなく、愚痴をこぼせるくらいの余裕を残して任務を果たせたことに安堵していた。

「やるじゃねえか」

土煙が収まるのを待って、日下部さんが笑いながら近付いてきた。

「ありがとうございます。呪霊と術式の相性がよくて良かったです」
「そう謙遜しなさんなって。疲れただろう。まだ昼間だが、明日の任務に備えて今日はもう旅館に戻るぞ」
「はい」

帳を解除して、歩いてきた山道をふたり並んで引き返し、(ふもと)で待機してくれていた補助監督さんの車に乗り込んだ。

「お疲れさまです。えらい早かったですねぇ」
「いやー、楽させてもらったね。やっぱり持つべきものは優秀な後輩だよ」

やっぱりサボるおつもりだったんですね……と思ったが、見方によっては、私は幸運だともいえるだろう。準一級術師に昇級する前に、日下部さんという確かな保険が控えてくれている状態で、一級案件の単独任務の経験を積ませてもらえたのだから。

「悪い先輩やなぁ。マ、とりあえず旅館に向かったらええですか?」
「おう、頼んだ」

車が走りだすと、緊張が(ほど)けたせいか、急に疲れが全身にどっと押し寄せて、頭の芯が鈍く痛むのを感じた。寝不足のせいか、車の心地よい揺れに誘われて、目を閉じてしまいそうになる。けれどまさか、先輩の前で居眠りをするわけにはいかない。私はこっそり手の甲をつねり、津波のように押し寄せる睡魔に抗うが、次の瞬間には意識を飛ばしかけている有様だった。

「疲れた。俺は寝る」

唐突に日下部さんがそう言い、私ははっと意識を覚醒させた。

「はいよ。旅館に着き次第、起こしますねぇ」
「竹之内も寝とけ」
「あ、いえ。私は……」
「じゃあ目閉じとけ。休めるときに休むのも仕事のうちだからな」

そう言うと、日下部さんはシートの端に頭を寄りかからせて目を閉じたまま、動かなくなった。

きっと、船を漕ぐ私を見かねて気を遣ってくださったのだろう。

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ひよこまる(プロフ) - えりんぎのバター炒めさん» コメントありがとうございます! 二人旅のシーンは、構想段階からどこかに差し込もうと思っていた場面なので、お褒めいただきすごく嬉しいです。一番書きたいシーンまで上手く辿り着けず焦ることも多いですが、ご期待に添える作品になるよう、頑張ろうと思います(^^) (5月7日 7時) (レス) @page37 id: 8ac964ebff (このIDを非表示/違反報告)
えりんぎのバター炒め(プロフ) - 心を療養する夏油さんと夢ちゃんの2人旅がすごく素敵です。とても引き込まれる作品で、2人の苦しさが身に染みます……。続き楽しみにしています! (5月7日 0時) (レス) id: 61116f8e5d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ひよこまる | 作成日時:2024年3月24日 21時

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