検索窓
今日:108 hit、昨日:211 hit、合計:10,171 hit

6-0 ページ29

通夜と告別式の日程は、電話で歌姫先輩から伝えられた。

「よかったら来てほしいの。あの子、瀬奈のこと大好きだったから」

泣きはらした声の歌姫先輩に言われ、私は制服を着て、告別式へ参列するために新幹線に乗った。高専の制服は、あらかじめ喪服として着用することが想定されているかのように黒い。通夜にも参列したかったが、任務でどうしても行けなかった。

受付で記帳し、香典を渡す。祭壇には立派な棺が横たえられていて、顔のところについた小窓は固く閉ざされていた。告別式のあいだ、庵ちゃんのお母さんは放心して一点を見つめていたが、読経が終わり、お別れの花入れの時間になると、堰を切ったように泣き崩れた。私がちゃんと止めなかったから、という悲痛な声が、嗚咽の合間に何度も聞こえた。蒼白な顔をしたお父さんは、お母さんの横に膝をつき、その背をそっと(さす)り続けていた。

火葬場に向けて出棺する霊柩車を、他の参列者とともにぼんやりと見送っていると、松葉杖の男が隣に立った。

「俺のせいやないし、お前のせいでもない」

見上げると、首元まで包帯を巻き、眼帯をした男がいる。見覚えのある顔だな、と思った直後、黒々とした瞳が、交流戦で私に暴行を働こうとした先輩の瞳に重なり、全身が強張った。去年までの洗練された雰囲気は見る影もなく、二回り以上痩せた彼は、松葉杖を支えに、なんとか立っているようにみえる。

「誰のせいでもない。ただ、運が悪かっただけや」

その言葉を聞いた瞬間、カッと頭に血がのぼって、怒鳴りつけそうになった。だけど、できなかった。先輩の目は、何人もの仲間の死を見届けて、命が踏みにじられる光景に慣れきってしまったような、諦めに近い(なぎ)いた色をしていた。

先輩は松葉杖で身体の向きを変えると、ぼろぼろの全身を引きずるようにして、去っていった。

私はそこに立ちつくし、いつまでも、その背を見送っていた。


***


自動販売機で買った缶ジュースのプルタップを立てたら、泡が吹き出して止まらなくなり、白い泡が手を伝いぼたぼたと廊下に落ちた。

「わぁ、竹之内さん。やっちゃいましたね」

通りかかった補助監督さんが、笑いながら自分のポケットを探る。

「ハンカチあったかなぁ。制服は汚れていませんか?」

6-1→←5-15 (R15)



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (38 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
225人がお気に入り
設定タグ:呪術廻戦 , 夏油傑 , 七海建人
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

ひよこまる(プロフ) - えりんぎのバター炒めさん» コメントありがとうございます! 二人旅のシーンは、構想段階からどこかに差し込もうと思っていた場面なので、お褒めいただきすごく嬉しいです。一番書きたいシーンまで上手く辿り着けず焦ることも多いですが、ご期待に添える作品になるよう、頑張ろうと思います(^^) (5月7日 7時) (レス) @page37 id: 8ac964ebff (このIDを非表示/違反報告)
えりんぎのバター炒め(プロフ) - 心を療養する夏油さんと夢ちゃんの2人旅がすごく素敵です。とても引き込まれる作品で、2人の苦しさが身に染みます……。続き楽しみにしています! (5月7日 0時) (レス) id: 61116f8e5d (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:ひよこまる | 作成日時:2024年3月24日 21時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。