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あ通夜と告別式の日程は、電話で歌姫先輩から伝えられた。
「よかったら来てほしいの。あの子、瀬奈のこと大好きだったから」
あ泣きはらした声の歌姫先輩に言われ、私は制服を着て、告別式へ参列するために新幹線に乗った。高専の制服は、あらかじめ喪服として着用することが想定されているかのように黒い。通夜にも参列したかったが、任務でどうしても行けなかった。
あ受付で記帳し、香典を渡す。祭壇には立派な棺が横たえられていて、顔のところについた小窓は固く閉ざされていた。告別式のあいだ、庵ちゃんのお母さんは放心して一点を見つめていたが、読経が終わり、お別れの花入れの時間になると、堰を切ったように泣き崩れた。私がちゃんと止めなかったから、という悲痛な声が、嗚咽の合間に何度も聞こえた。蒼白な顔をしたお父さんは、お母さんの横に膝をつき、その背をそっと
あ火葬場に向けて出棺する霊柩車を、他の参列者とともにぼんやりと見送っていると、松葉杖の男が隣に立った。
「俺のせいやないし、お前のせいでもない」
あ見上げると、首元まで包帯を巻き、眼帯をした男がいる。見覚えのある顔だな、と思った直後、黒々とした瞳が、交流戦で私に暴行を働こうとした先輩の瞳に重なり、全身が強張った。去年までの洗練された雰囲気は見る影もなく、二回り以上痩せた彼は、松葉杖を支えに、なんとか立っているようにみえる。
「誰のせいでもない。ただ、運が悪かっただけや」
あその言葉を聞いた瞬間、カッと頭に血がのぼって、怒鳴りつけそうになった。だけど、できなかった。先輩の目は、何人もの仲間の死を見届けて、命が踏みにじられる光景に慣れきってしまったような、諦めに近い
あ先輩は松葉杖で身体の向きを変えると、ぼろぼろの全身を引きずるようにして、去っていった。
あ私はそこに立ちつくし、いつまでも、その背を見送っていた。
***
あ自動販売機で買った缶ジュースのプルタップを立てたら、泡が吹き出して止まらなくなり、白い泡が手を伝いぼたぼたと廊下に落ちた。
「わぁ、竹之内さん。やっちゃいましたね」
あ通りかかった補助監督さんが、笑いながら自分のポケットを探る。
「ハンカチあったかなぁ。制服は汚れていませんか?」
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ひよこまる(プロフ) - えりんぎのバター炒めさん» コメントありがとうございます! 二人旅のシーンは、構想段階からどこかに差し込もうと思っていた場面なので、お褒めいただきすごく嬉しいです。一番書きたいシーンまで上手く辿り着けず焦ることも多いですが、ご期待に添える作品になるよう、頑張ろうと思います(^^) (5月7日 7時) (レス) @page37 id: 8ac964ebff (このIDを非表示/違反報告)
えりんぎのバター炒め(プロフ) - 心を療養する夏油さんと夢ちゃんの2人旅がすごく素敵です。とても引き込まれる作品で、2人の苦しさが身に染みます……。続き楽しみにしています! (5月7日 0時) (レス) id: 61116f8e5d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ひよこまる | 作成日時:2024年3月24日 21時