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5-15 (R15) ページ28

「早く行かないと。信号変わっちゃうよ」

その背中を押した。庵ちゃんは勢いに乗って一歩踏みだし、ふり返って笑みを作った。愛が(あふ)れてこぼれおちそうな、幼い子どものように明るい笑みだった。


***


任務終わり、人気(ひとけ)のない薄暗い路地を歩いていると、外灯の下に黒猫を見つけた。こちらをじっと見つめる金色の目が、満月のように爛々(らんらん)と輝いている。

近寄ろうとしたとき、携帯の着信音が夜空に鳴り響いた。猫は感電したみたいに素早く走り去っていく。液晶画面には、補助監督さんの名前が表示されていた。

「竹之内です」
「今、どちらですか?」
「出張先です。あとは帰るだけですが」
「なら、今から言う踏切へ応援に向かってもらえませんか? 任務にあたっている、京都校の一年生と連絡がつかないんです。場所はーー、」

私はすべてを聞き終わる前に走り出していた。踏切。踏切。それだけを反芻(はんすう)しながら。むやみに呼吸が乱れていく。駅の改札前には人だかりができていた。

ーー人身事故で運転見合わせだって。
ーーまた?
ーー今月で何回目だよ。
ーー死ぬなら迷惑かけずに死んでほしいよね。

月明かりを頼りに、線路脇のフェンスに沿ってまっすぐ走る。満月に向かって吠える異形の姿を認めた瞬間、私は線路へ躍り出て、右拳に呪力を込めた。血走った呪霊の目が、呪力に反応して、私を(とら)える。

「デデ、デンシャがハッシャシマ、」

呪霊の頭が弾けた。月明かりに紫の血飛沫が舞い、雨のように私の全身を濡らす。呪霊が暴れたのだろう。路面はいたるところが陥没し、レールはめくれ上がり、電柱は折れて電圧線は火花を散らしていた。私は目を凝らして隅々まで見据えた。

ーー庵ちゃんの残穢はない。

きっと応戦せず逃げたのだ。逃げるのに必死で補助監督さんに連絡を取り損ねたのだろう。安堵して携帯電話を取り出そうとしたとき、線路脇に生い茂る草むらに、何かが見えた。

それは頭だった。

短い亜麻色の髪と白くまろい頬は、庵ちゃんのものによく似ている。火が消えたように暗くなった瞳は、さっきまで、きらきらと輝いて色んな表情を見せていた。

私の全身は崩れ落ちそうに脱力していたが、2本の足は、なんとか地面と垂直に立っていた。

風が吹いて、庵ちゃんの青白い顔を月明かりが照らす。

何ひとつ動くことができないくせに、変に()え渡った意識で、体はどこにいったんだろう、と考えている自分がおかしかった。

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ひよこまる(プロフ) - えりんぎのバター炒めさん» コメントありがとうございます! 二人旅のシーンは、構想段階からどこかに差し込もうと思っていた場面なので、お褒めいただきすごく嬉しいです。一番書きたいシーンまで上手く辿り着けず焦ることも多いですが、ご期待に添える作品になるよう、頑張ろうと思います(^^) (5月7日 7時) (レス) @page37 id: 8ac964ebff (このIDを非表示/違反報告)
えりんぎのバター炒め(プロフ) - 心を療養する夏油さんと夢ちゃんの2人旅がすごく素敵です。とても引き込まれる作品で、2人の苦しさが身に染みます……。続き楽しみにしています! (5月7日 0時) (レス) id: 61116f8e5d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ひよこまる | 作成日時:2024年3月24日 21時

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