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あ私だって、凡人ではないという自負はあった。何百何千もの呪霊を祓って生き残り、準一級術師に昇級するには、呪術師としての才能は不可欠だった。だけど、才能があるからこそ、彼我の実力差を見抜けるようになってしまった。つまり、私では、五条君のいる、正真正銘の強者の世界には行けないと。圧倒的な実力差を見せつけられて自信をなくしているわけではなくて、単純な、事実だった。
あ廊下を歩いていたとき、中庭で冥冥さんと手合わせする五条君を見つけた。立ち止まって眺めていると、
「またやってますね」
あと後ろから話しかけられて、ふり返る。七海君と硝子ちゃんが、私を
「最近、
「全くです。いくら支払ったんだか」
「先週入ってきた新入生が、入学初日に五条と冥さんの手合わせを見かけたみたいで、ビビり倒してたよ」
「伊地知くんですか? 可哀想に」
「繊細そうな奴だし、初日なんて何もなくても緊張してただろうに、気の毒だよな」
「……もうそんな時期だっけ」
あ会話についていけず、つい思ったままを口にすると、ふたりの視線が私に集中した。硝子ちゃんが「そういえば瀬奈は昨日まで出張だったもんな」とポケットから煙草を出し、断りもなく吸い始める。
「クソ忙しいよなぁ、やってらんないよ。瀬奈、ちゃんと寝てるか? 最近、怪我が増えただろ」
「大丈夫。そもそも任務の数が多いから、怪我も増えただけ。硝子ちゃんこそ、大丈夫?」
「何が?」
「
「私は徹夜で勉強してるだけ。一過性のやつだよ」
あ煙草をはさむ指の爪から透ける肉が青白い。疲れきっているのは明らかだったが、私はあえて何も言うことなく、頑張ってるんだね、とうなずいた。
「そういえば竹之内さん、痩せられましたよね」
「おっ、セクハラか? 七海」
「ちがいます」
あふたりの会話にちょっと笑った。食欲がないのではなく、最近はなんだか頭がうまく働かなくて、食欲より睡眠欲を優先するせいで食事の回数が減っていた。しかし眠っていても、深夜2時頃にぽっかり目が覚めて、そのまま寝られず朝まで過ごしているのだから、完全に悪循環だった。
「んー、ダイエットの成果かな」
「痩せる必要はないと思いますよ」
「ありがとう」
あ七海君は今日もかっこいい。だけど私の心臓は、泥水を吸って溺死したピンク色のスライムみたいに、ぐったりとしたまま、なんの反応も示さなかった。
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ひよこまる(プロフ) - えりんぎのバター炒めさん» コメントありがとうございます! 二人旅のシーンは、構想段階からどこかに差し込もうと思っていた場面なので、お褒めいただきすごく嬉しいです。一番書きたいシーンまで上手く辿り着けず焦ることも多いですが、ご期待に添える作品になるよう、頑張ろうと思います(^^) (5月7日 7時) (レス) @page37 id: 8ac964ebff (このIDを非表示/違反報告)
えりんぎのバター炒め(プロフ) - 心を療養する夏油さんと夢ちゃんの2人旅がすごく素敵です。とても引き込まれる作品で、2人の苦しさが身に染みます……。続き楽しみにしています! (5月7日 0時) (レス) id: 61116f8e5d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ひよこまる | 作成日時:2024年3月24日 21時