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「何もなければ娘に電話をかけてはいけないの? どうしてるかと思ったのよ」

ころころと笑う母の声を聞きながら、私は、男の人とうまくいっているんだな、と思った。

男がいないと眠れない女というのは確かに存在して、母もそのタイプだった。母は恋が終わるたびにこの世の終わりみたいに泣き、情緒不安定になり、お酒を飲んで部屋を荒らすことさえあった。幸い、とても美しい人だったから、母と付き合いたがる男は引きも切らず現れて、すぐにまた、上機嫌で新しい男の腕に自分の腕をからめていたけれど。

「そうじゃないけど。ただ、いつもは私が電話しても、折り返しすらくれないじゃない?」
「あら、拗ねてるの? 仕方ないじゃない。瀬奈は学生で暇かもしれないけど、私は忙しいのよ。どうせ大した用じゃないんでしょう?」
「……うまくいってるの? 今の人とは」
「えぇ、籍を入れたわ」

籍を入れた?

私は絶句し、母の言葉を脳内で反芻(はんすう)した。籍を入れた……、結婚した? 相手は、どの男だろう。たしか私が高専に入寮することが決まった夜、母が電話で「娘の部屋が空くから使って」と電話する声を聞いた。入学したての頃、荷物を取りに実家へ戻った日、私のグラスに洋酒を注ぎながらテレビを観る、傷んだ茶髪の男の後ろ姿を見たこともある。その瞬間はさすがにショックだったけど、私が寮生活を送ることになって、男を自由に連れ込むことができるようになった開放感で、(たが)が外れているのだろうくらいに思っていた。

それがまさか、何の相談もなく結婚だなんて。

いったい、どの男だろうか? 混乱する頭で必死に記憶を辿ったが、手がかりになりそうなことは、なにも思い出せなかった。

「瀬奈? どうかした」
「どうかしたって……、急に言われても困るよ。どんな人なの?」

電話口で、母が鼻白らむ気配がした。

「心配しなくても、あなたに迷惑はかけないわ」
「そういうことじゃなくて……。なら相手の方の都合のいい日を教えて。なんとか休みを取って挨拶に行くから」
「いらないわ、挨拶なんて。そういう堅苦しいのは好きじゃない人なの」
「……お母さん、私は結婚に反対してるわけじゃないの。お母さんは美人だし、まだ若いし、新しく人生を一緒に歩める相手ができたっていうのは、本当に良かったと思ってる。でも、家族になるんだもの。私に一言、知らせてくれてもよかったでしょう?」
「私の人生を私がどう生きたって、私の自由でしょ」

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ひよこまる(プロフ) - えりんぎのバター炒めさん» コメントありがとうございます! 二人旅のシーンは、構想段階からどこかに差し込もうと思っていた場面なので、お褒めいただきすごく嬉しいです。一番書きたいシーンまで上手く辿り着けず焦ることも多いですが、ご期待に添える作品になるよう、頑張ろうと思います(^^) (5月7日 7時) (レス) @page37 id: 8ac964ebff (このIDを非表示/違反報告)
えりんぎのバター炒め(プロフ) - 心を療養する夏油さんと夢ちゃんの2人旅がすごく素敵です。とても引き込まれる作品で、2人の苦しさが身に染みます……。続き楽しみにしています! (5月7日 0時) (レス) id: 61116f8e5d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ひよこまる | 作成日時:2024年3月24日 21時

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