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頑張らなければならないと思った。だって、呪術界の劣悪な労働環境下で、それでも私たち学生は、夜蛾先生に守ってもらえているだけマシな部類なのだ。疲れた、苦しい、という本音を口にすることは、甘えであるような気がした。

だけど、いつまで?

自分の気持ちに蓋をして、口をつぐんで、我慢して、頑張り続けたとして、報いはあるのか。

むしろ、都合のいいように扱われて、心身をすり減らし、使い物にならなくなったら排除されてしまうだけなのではないだろうか。

うすうす気付きつつも、口に出せば面倒なことになると分かりきっているから、聞き分けのいいふりをして、無難にやり過ごすしかない。

それは、上手に社会を生き抜くための鎧でもあった。

「そういえば、明日は愛媛県で任務だったな」
「はい」
「悪いんだが、帰りの航空便に乗るまでに時間があれば、中島に立ち寄って事前調査を頼まれてくれないか」
「事前調査、ですか?」
「あぁ。祓除は京都校が行うとのことだから、聞き込みだけで構わない。時間がなければ、調査はせず、そのまま帰ってきてくれていい」

夜蛾先生の口ぶりから、最大限、私に気を遣って話しているのが伝わってきた。立派な大人の男性が、たかが10代の小娘に、である。私は、素直に頷きたがらない頭をなんとか縦にふって、愛想笑いを作った。

「わかりました」
「すまないな」

とんでもないです。そう答えつつも、逃げ場のない息苦しさを感じずにはいられない。回送電車が風を切って走り去る轟音に重なって、鼓膜を圧迫するような水中の音が聞こえた。一瞬の幻聴だったけれど、確かにそれは、かつて死に際に聞いた音だった。

沈んでいく。終わりの見えない、暗闇の底へ。


***


深夜に任務から帰ってきたら、廊下ですれ違った補助監督さんに「スカート切れてますよ」と気まずそうに指摘されて、ぼんやりと風呂場に向かった。全身鏡で後ろを確認すると、確かにお尻まで深いスリットが入っている。私はファスナーを降ろすと、すとんと足元に落ちたスカートを雑に丸めて、ゴミ箱へ突っ込んだ。自室に持ち帰って修復する気力はなかった。

シャワーをさっと浴びてから、部屋に戻って携帯を確認すると、母からの着信が入っていた。

驚いてかけ直せば、もしもし? と母が先に口を開く。その声が切羽詰まった感じではないことに、私は安心した。

「瀬奈だけど。急にどうしたの」

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ひよこまる(プロフ) - えりんぎのバター炒めさん» コメントありがとうございます! 二人旅のシーンは、構想段階からどこかに差し込もうと思っていた場面なので、お褒めいただきすごく嬉しいです。一番書きたいシーンまで上手く辿り着けず焦ることも多いですが、ご期待に添える作品になるよう、頑張ろうと思います(^^) (5月7日 7時) (レス) @page37 id: 8ac964ebff (このIDを非表示/違反報告)
えりんぎのバター炒め(プロフ) - 心を療養する夏油さんと夢ちゃんの2人旅がすごく素敵です。とても引き込まれる作品で、2人の苦しさが身に染みます……。続き楽しみにしています! (5月7日 0時) (レス) id: 61116f8e5d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ひよこまる | 作成日時:2024年3月24日 21時

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