検索窓
今日:11 hit、昨日:179 hit、合計:10,253 hit

5-7 ページ20

「夜蛾先生。お疲れさまです」
「お疲れ。そういえば今日は、新宿で任務だったな」
「はい」

ひっきりなしに電車が往来するホームで、その騒音に負けまいと、やや声を張りながら近寄った。先生は、きちんとした黒いスーツを身に纏っている。

「先生は、会議か何かの帰りですか?」
「いや、そうじゃない」

私は、そうですか、と引き取ろうとしたが、それよりも一拍早く、夜蛾先生が言葉を続けた。

「黒井美里さんのご自宅へ弔問(ちょうもん)に伺っていたんだ」

黒井美里、という名前を聞いて、最初は誰のことかわからなかった。しかし「天内理子さんの火葬は高専主導で行ったから同行できたんだが、黒井美里さんの葬儀にはどうしても参列できなかったからな」と告げられて、あの晩の理子ちゃんの話の中で、何度も登場した女性の名前だと思い出す。

「……そうでしたか」
「あぁ」
「理子ちゃんと黒井さんは、今、どちらにいるんですか?」

怪訝な顔をした夜蛾先生に、「とても仲がよかったみたいだったから、ふたりが近くで眠れているのか気になって」と付け加える。夜蛾先生が、サングラス越しに目を伏せたのがわかった。

「詳しい場所は告げられない。が、天内理子さんは高専の管理下の墓に、黒井美里さんは黒井家の方々が管理する墓に(はい)られたよ」
「そうなんですね」

黒井は口うるさいところがあるのじゃ、と親しみを込めた愚痴をこぼしていた理子ちゃんの声を思い出す。若いのに母親みたいじゃろ、といたずらっぽく付け加えた忍び笑いも。理子ちゃんは黒井さんのことを世話役だと言ったが、ふたりの間には、長い年月の積み重ねが築いた絆が確かにあった。それでも、ふたりは共に眠ることさえ許されなかった。単なる世話役と主人だから。あんなに心が深く繋がっていたにも関わらず。

「今日ここで私と会ったことは、悟と傑には言わないでくれないか」

夜蛾先生は言いつつサングラスのブリッジをくいと持ち上げた。その手首が随分と細くなっていることを私は見つけた。

「あのふたりは強い。だがこれは、大人が引き受けるべき責任だからな」

夜蛾先生は唇の端を持ち上げるように笑った。隠しきれない疲れの(にじ)んだ、大人の微笑みだ。きっと先生はこれまでも、私たちの知らないところで、生徒を守るために必死に動いてくださっていたのだろう。

5-8→←5-6



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (39 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
226人がお気に入り
設定タグ:呪術廻戦 , 夏油傑 , 七海建人
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

ひよこまる(プロフ) - えりんぎのバター炒めさん» コメントありがとうございます! 二人旅のシーンは、構想段階からどこかに差し込もうと思っていた場面なので、お褒めいただきすごく嬉しいです。一番書きたいシーンまで上手く辿り着けず焦ることも多いですが、ご期待に添える作品になるよう、頑張ろうと思います(^^) (5月7日 7時) (レス) @page37 id: 8ac964ebff (このIDを非表示/違反報告)
えりんぎのバター炒め(プロフ) - 心を療養する夏油さんと夢ちゃんの2人旅がすごく素敵です。とても引き込まれる作品で、2人の苦しさが身に染みます……。続き楽しみにしています! (5月7日 0時) (レス) id: 61116f8e5d (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:ひよこまる | 作成日時:2024年3月24日 21時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。