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「かしこまりました。こちら、素敵なお色ですよね。きっとお喜びになると思いますよ」

ではお預かりしますね、と店員が立ち去ると、庵ちゃんは、ほっと明るい笑顔をみせた。

「ありがとうございます」
「ううん。あのリップ、本当に可愛かったね。私まで欲しくなっちゃった」
「えへへ。歌姫ちゃんも、喜んでくれたらいいんですが」

庵ちゃんは包装されたリップを受け取るのが待ち遠しいのか、会計待ちの手持ち無沙汰な間、何度も店員さんが消えた従業員出入り口に目を向けた。前世、初めてのバイト代で母にブランドのイヤリングを買ったことを思い出して、私は微笑ましい気持ちになる。

そのとき、くらりと視界が揺れた。貧血かと案じ、しっかり両足で地面を踏み締めると、天井から吊るされたポスターも揺れていて、ようやく地震だと気付く。また揺れた、今月で何度目? まわりの人々も少し動きを止めたが、大きな揺れがこないと確信すると、すぐに営業トークや買い物に戻っていった。

「最近、多くないですか? 大きな地震の前触れみたいで不安です」

まだ少し揺れが残る中、庵ちゃんが眉を(しか)めて言った。

「大丈夫。地震がくる度に断層のひずみは解消されるっていうでしょう? 大きな地震はこないよ、きっと」
「だといいんですが……。7月に洪水があったり、大型台風の予報があったり、なんだか夏以降、良いことがないですね」

庵ちゃんの言葉に、そうだね、と頷いた。呪霊は、人々から漏洩した呪力が、特定の存在や場所に対して、強力な負の指向性を持って向けられることにより生まれる。これだけ災害が頻発すれば、将来への不安や恐怖によって漏洩した呪力は、日本中のあちこちに溜まっているだろう。

来年はきっと、忙しくなる。

「庵ちゃんは、来年、京都校に入学するんだっけ?」
「はい!」
「呪術師志望? 補助監督志望?」
「呪術師志望です。母は補助監督にしときなさいって言うんですが、やっぱり呪術師になりたくて」

庵ちゃんは光の反射する目を、まっすぐに私へ向けている。呪術師という職業に対する憧れと期待が満ちた光だ。なんとも言えない気持ちになって、私は微笑んだまま目を伏せた。

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ひよこまる(プロフ) - えりんぎのバター炒めさん» コメントありがとうございます! 二人旅のシーンは、構想段階からどこかに差し込もうと思っていた場面なので、お褒めいただきすごく嬉しいです。一番書きたいシーンまで上手く辿り着けず焦ることも多いですが、ご期待に添える作品になるよう、頑張ろうと思います(^^) (5月7日 7時) (レス) @page37 id: 8ac964ebff (このIDを非表示/違反報告)
えりんぎのバター炒め(プロフ) - 心を療養する夏油さんと夢ちゃんの2人旅がすごく素敵です。とても引き込まれる作品で、2人の苦しさが身に染みます……。続き楽しみにしています! (5月7日 0時) (レス) id: 61116f8e5d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ひよこまる | 作成日時:2024年3月24日 21時

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