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「複雑だよね、渋谷駅。私も、ふだんは感覚的に歩いてるけど、やっぱり人に道案内をするってなると難しいよ」
「そうなんですか」

ストローをくるくるとまわして、アイスクリームをソーダに溶かしながら、庵ちゃんが言った。彼女の肌は一点の凹凸もなく滑らかで、綺麗に染められた亜麻色の髪も垢抜けた印象を与えることに成功していたが、まろい頬のラインや、少年のように細長く伸びた腕が、成長期特有のアンバランスさを残していた。

「瀬奈さんは、今日はお買い物ですか?」
「うん、任務のついでに。庵ちゃんは?」
「私もそうです」

庵ちゃんの目が、私側のソファの上に置いてある、ブランドのロゴが入った紙袋に向けられる。

「瀬奈さんは、準一級術師なんですよね」
「うん。昇級したのは最近だけどね」
「ブランド物とか、普段からよく買われるんですか?」

私は答えに(きゅう)した。庵ちゃんは、どれくらいの給料をもらっているんだろうという、嫌な好奇心を宿した目で私をながめているわけではなかった。ただ、彼女の甲高く可愛い地声に、かすかにハリと元気がなくなったような気がして、そのことが私を戸惑わせた。

「そうでもないよ。今日はたまたま」

実際、二級から準一級に昇級してみて、前世であくせく働いていたのが馬鹿らしくなるほどの給金に驚きはしたが、もし任務中の怪我で社会復帰が不可能なほどの後遺症を負ってしまったらと考えると、けっして豪遊はできなかった。

「そうなんですね」

庵ちゃんはうなずくと、ため息混じりに「実は」と切り出した。

「歌姫ちゃんも準一級術師に昇級したみたいで、今日はそのプレゼントを選びに来たんです。でも、お給料いっぱいもらってるだろうし、もしブランド物を普段から買ってるなら、何をあげたって、かすんじゃいますよね? 百貨店の化粧品売り場とかも見てみたんですけど、私が友達と行くようなコスメショップとは雰囲気が違っていて、なんだか場違いなような気がして、店員さんに声をかけるのも恥ずかしくて」
「場違いなんて、そんなことないよ。学校帰りなのかなぁって子を見かけることはたくさんあるし、現に私も制服だし」
「瀬奈さんは顔に華があるから」
「そんなことないけど……」
「そもそも中学生と高校生じゃ、全然ちがうじゃないですか」
「うーん。でも、それなら、庵ちゃんは中学生とは思えないほど垢抜けて見えるよ。髪、新しく染めたよね? すごく似合ってる」

本心から出た言葉だったが、庵ちゃんは頑なにかぶりを振った。

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ひよこまる(プロフ) - えりんぎのバター炒めさん» コメントありがとうございます! 二人旅のシーンは、構想段階からどこかに差し込もうと思っていた場面なので、お褒めいただきすごく嬉しいです。一番書きたいシーンまで上手く辿り着けず焦ることも多いですが、ご期待に添える作品になるよう、頑張ろうと思います(^^) (5月7日 7時) (レス) @page37 id: 8ac964ebff (このIDを非表示/違反報告)
えりんぎのバター炒め(プロフ) - 心を療養する夏油さんと夢ちゃんの2人旅がすごく素敵です。とても引き込まれる作品で、2人の苦しさが身に染みます……。続き楽しみにしています! (5月7日 0時) (レス) id: 61116f8e5d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ひよこまる | 作成日時:2024年3月24日 21時

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