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「なるほど! なんていうか、いつも通りですね」

大人たちの懸念は杞憂に終わりつつあり、高専はいつも通りの日常を取り戻しかけていた。綺麗に修復された建物の壁や柱は、はじめから傷なんかなかったみたいに、伏黒甚爾の襲撃なんてなかったみたいに、つるりとした質感でそこにある。

五条君と夏油君もまた、数日間授業を休んだあとは、するりと日常に戻っていった。復帰の初日、座学の時間に「だるい」などと愚痴をこぼす五条君とそれを諌める夏油君を横目に見ながら、今までのことは夢だったのだろうかと、私は半ば本気で考えた。理子ちゃんが殺されたこと、いや、ふたりが星漿体護衛任務に就いていたこと自体が夢であり、彼らは本当に沖縄旅行に行っただけで、理子ちゃんは今もどこかで生きているのではないか。だって私は、理子ちゃんの死に際も遺体も見ていない。彼女の死は、夢よりも遠い現実だった。

じゃあ、五条君と夏油君は?

「あ、夜蛾先生ですね」

灰原君の言葉に下を見下ろすと、校舎から飛び出してきた夜蛾先生が、五条君と夏油君の頭に拳骨を落としていた。あれは痛そうだな、と灰原君が声を立てて笑う。

衝撃的な出来事を受け入れる過程は人それぞれだし、呪術師として生きていく限り、この一件に留まっているわけにはいかない。いつ死んでもおかしくない仕事だからこそ、考えても詮無いことに(とら)われて次を見なければ、やがて取り残される。それでも、五条君や夏油君が彼女の死をそんなふうに割り切れることが私は淋しかったし、核心に蓋をしてとりあえず前に進むことへの不安を感じずにはいられなかった。

ーー大丈夫じゃないだろ。

ふと、いつかの夏油君の言葉を思い出す。

ーーあんなこと、大丈夫であっていいはずがない。

もう一度、下をのぞきこむと、五条君と並んで地面に正座をさせられている夏油君の背中が見えた。復帰初日、怪我の具合を心配する私に「もう大丈夫だよ」と笑った背中。

“もう大丈夫”。……本当に?

青空に、入道雲が白く輝いている。美しく高く湧き上がるその内部では、雨風が静かにさかまいているらしい。

「でも、良かったです。おふたりとも、すっかり元気みたいで。大怪我をされたって聞いていたから、心配していたんですよ。やっぱり強い人たちだな」

灰原君が邪気のない笑顔で語るのを隣で聞きながら、私は、掴みどころのない不穏をうっすらと感じていた。

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ひよこまる(プロフ) - えりんぎのバター炒めさん» コメントありがとうございます! 二人旅のシーンは、構想段階からどこかに差し込もうと思っていた場面なので、お褒めいただきすごく嬉しいです。一番書きたいシーンまで上手く辿り着けず焦ることも多いですが、ご期待に添える作品になるよう、頑張ろうと思います(^^) (5月7日 7時) (レス) @page37 id: 8ac964ebff (このIDを非表示/違反報告)
えりんぎのバター炒め(プロフ) - 心を療養する夏油さんと夢ちゃんの2人旅がすごく素敵です。とても引き込まれる作品で、2人の苦しさが身に染みます……。続き楽しみにしています! (5月7日 0時) (レス) id: 61116f8e5d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ひよこまる | 作成日時:2024年3月24日 21時

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