7-20 ページ19
Noside
「っづ……！！！」
自分の出ていない声で起きたのかと思うほど、突然訪れる覚醒。それから寝起きとは思えないくらいの汗の量に男は顔を顰めた。
全ては終わったことなのに、まだ自分の胸のモヤは晴れない。
気持ちが悪い。
何か振り払えない手がいつまでも自分に伸びている気がする。
それでも仕事は山のように来る。自分がいなかった期間溜まっていたものや新規の客。それら全部を捌ききれず、普段なら容易に出来た仕事も断った。
短気な黒髪の上客の依頼すら、いくつか断った。
話せないのだから、勿論こなせる仕事は減る。
時には自分を偽物では無いかと疑う客もいた。事務所は最低限の物を揃えた、揃えてもらった。もう一度仕事をやらせると言っていた黒髪の恩人に。
……揃えてもらったというか勝手に揃えたというか。
「…………、」
そうして眠れなくなった男、Aは布団から出る。
家は無事で良かった、なんて。
鏡の前で声を出そうとしても、映るのは口を開けているだけの自分。
Aは溜息をつく。
もう終わった、もう無い…生きてないのに。
違う生きて欲しかった訳じゃない、あんな奴らが惜しい訳じゃない。ずっと助けて欲しかった、ずっと殺して欲しかった。ただ勇気が無かっただけで。
関わりたくなかった、逃げてきた自分にとっては殺してと頼むのすら億劫だった。忘れたかった。なかった事に、したかった。
それが全てだ。
ベランダで外の空気と月光を浴びる。
少しだけ冷たい空気が肺を満たして心地が良い。
「…？」
え？なんて零した声は勿論どこにも響かなかった。
「A！」
「……」
「久しぶりだな、ここ最近ヒソカがずっとお前の事務所にいるから寄りつけなくて。」
「…………」
「ああまだ声が出ないのか勿論筆談でも＿」
バタン。
開けられた窓が閉められる、窓の奥ではカーテンも閉められAの姿は見えない。
えっ、と零した男は思わず窓を叩いた。
「締め出した！何で！？俺なんかしたか！？なぁ！A！！！」
「……！！」
近所迷惑！！と書かれたスケッチブックを見せてまた閉めた。
何で〜と喚く男を呆れた目で見ながら窓越しに何やら文字を書くA。
耳が良いのは健在だからだろう、窓越しでも何を言っているのか伝わる。
『何でここにいるんだ、クロロ』
「何でってお前の様子を見に」
開けてくれよ、と笑顔で言うクロロを見て、また顔を顰めた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 207人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「HUNTER×HUNTER」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ヴィンセント・ヴァンクール - とっても面白かったです！面白すぎて一気に読んでしまいました！！続き楽しみにお待ちしております╰(*´︶`*)╯♡ (11月17日 16時) (
レス) @page21 id: 0ffcd0578b (このIDを非表示/違反報告)
とらじ - 私の性癖にブッ刺さりまして…一気に読ませてもらいました！作者様のペースでいいので、続きをお待ちしております！ (2022年9月22日 20時) (レス) @page21 id: c8f94ad8bd (このIDを非表示/違反報告)
パンツ - じゅじゅき無くて泣きそうあああああああああああ (2022年7月17日 11時) (レス) @page21 id: 804c35253a (このIDを非表示/違反報告)
雪マカロン(プロフ) - 凄く面白いです！更新頑張ってください！ (2022年5月5日 6時) (レス) @page20 id: c9091179e7 (このIDを非表示/違反報告)
リト - 待っていました！思っていたより最高のお話で、良かったです！これからも応援してます♪ (2022年4月4日 22時) (レス) @page18 id: 2df230b8f3 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：山菜 | 作成日時：2022年3月8日 5時
